金星で見つかった酷寒の大気層
【2012年10月3日 ESA】
欧州の探査機「ビーナス・エクスプレス」が、金星大気の中に二酸化炭素が凍ってしまうほど低温の大気層を発見した。
金星の特徴は分厚い二酸化炭素の大気と非常に高い表面温度(地表付近は500℃)だ。大きさは地球と似ているが環境があまりに異なるため「似て非なる双子」とも言われる。この表面温度が高い金星を周回中の、(ESA)の探査機「ビーナス・エクスプレス」による5年分の観測データを新たに解析した結果、高度125kmのところに気温マイナス175℃という極低温の層があることがわかった。地球大気にはこれより低温の場所はどこにもない。金星が地球より太陽に近いことを考えると、とても不思議な現象だ。
この結果は、金星の大気を通過してくる太陽光を分析し、高度ごとの大気中の二酸化炭素分布を調べることで得られた。二酸化炭素の分布データと高度ごとの大気圧データを組み合わせて計算することで、大気の温度を推定することができる。
画像2枚目が高度ごとの温度分布だ。「ある高度では、二酸化炭素が凍ってしまう温度まで下がっています。そこでは二酸化炭素の氷が発生していると思われます」(ベルギー宇宙航空研究所のArnaud Mahieuxさん)。
凍った二酸化炭素の粒は光の反射率が高い。「探査機で見つかる大気中の非常に明るい領域は、このような氷が原因かもしれません。ただし、大気の乱流によるとも考えられるので、断定はできません」。
またこの研究では、この低温層が2つの高温層に挟まれていることもわかった。「高度120kmの大気は昼側と夜側で極端に温度差があります。その中間点にあたる明暗境界域では、低温の大気と高温の大気のせめぎ合いが起こっています。高度ごとに、夜側の大気が優勢なところが低温層、昼側の大気が優勢なのが高温層、ということなのでしょう」。
今回の結果は理論モデルと一致するものだが、大気上層部で二酸化炭素よりも多く存在する一酸化炭素や窒素、酸素などについても検証すれば、さらに確実なものになるだろう。
「今回の発見はとても斬新なもので、その意味するところについては慎重に吟味し、理解しなくてはなりません。このような温度分布は、化学組成や温度環境の異なる地球や火星の明暗境界域では見られない珍しいものです」(ESAのHåkan Svedhemさん)。