金星大気の変化は火山活動か、循環か
【2012年12月11日 ESA】
欧州の探査機「ビーナスエクスプレス」により、金星の上層大気に含まれる二酸化硫黄の量に急激な変化がとらえられている。その原因は金星の活火山か、それとも大気の循環か。研究者らは隣の惑星の謎を追っている。
金星の表面は数百個の火山で覆われていることがわかっているが、それらが活火山であるかどうかについては議論が続いている。これを調べるのがヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ビーナスエクスプレス」の重要なミッションの1つだ。
ビーナスエクスプレスは既に、地質学的に最近といえる数十万年から数百万年前に金星で火山活動があったことを示す証拠を見つけている。金星表面からの赤外線放射を解析した前回の調査では、火山周辺の地表とは全く異なる成分を持つ溶岩が火山の上を流れていることが示された。つまり、その火山は最近噴火したということだ。
さらに、ビーナスエクスプレスが金星に到着した2006年からの6年間にわたる上層大気の二酸化硫黄の調査からも新たな事実が浮かびあがりそうだ。
二酸化硫黄ガスは匂いのある有毒なガスで、地球ではそのほとんどが火山活動によって発生する。金星の分厚い大気の中には、地球大気の百万倍を超える二酸化硫黄ガスが含まれており、そのほとんどは上層の濃い雲の下に隠れている。二酸化硫黄は太陽光によってすぐに破壊されてしまうからだ。
ビーナスエクスプレスが2006年に金星に到着した直後、上層大気中の二酸化硫黄の濃度が突然増加した後、ふたたび急激な減少を見せ、現在では10分の1にまで落ち込むという興味深い現象をとらえている。このような二酸化硫黄ガスの減少は、1978年から1992年にかけてのNASAの探査機「パイオニアビーナス」による観測でも見られたものだ。当時は、火山の噴火で二酸化硫黄が急増した直後の減少期だったからというのが、もっとも都合の良い説明だった。
「金星の上層大気で二酸化硫黄ガスが増加したら、それは何らかの事象によって最近運ばれたということです。二酸化硫黄のガス分子は太陽光によって数日のうちにすぐに分解されてしまうからです」(フランス大気環境観測研究所(LATMOS)のEmmanuel Marcqさん)。
Marcqさんらは、二酸化硫黄の増加が火山活動に因るものなら、それは1度の大噴火ではなく複数の活火山による比較的安定的な活動によるものであると推測している。
一方、フランス国立科学研究センターのJean-Loup Bertauxさんによれば、「スーパーローテーション」と呼ばれる金星大気の不思議な循環システムがこのような結果を生み出した可能性もあるという。
金星の大気は地球のたった4日間で金星を1周する。金星の自転周期が243日であることを考えると、金星大気は超高速で回転しているといえるだろう。このような大気の高速循環は二酸化硫黄を瞬時に拡散させてしまう。
「パイオニアビーナスの観測結果もふまえてそれ以外の説明を考えると、金星で起こっている十数年周期の大気循環である可能性も考えられます。もしそうなら、金星の大気循環は思ったよりはるかに複雑だったことになります」(Marcqさん)。
「大気に残ったガスに見られる様々なヒントをたどっていけば、金星や、もしかしたらその火山の活動の様子がわかってくるでしょう」(ESAのHåkan Svedhemさん)。