2016年 天文宇宙ゆく年くる年
【2016年12月27日 アストロアーツ】
今年前半の星空の主役は、2年2か月ぶりに地球に接近した火星。5月31日の最接近ごろには各地で観望会が開かれ、アンタレスとの「赤い星対決」も注目の的となった。赤い星の話題はこれだけに留まらず、今年は「アルデバラン食」が5回起こった年でもあった。潜入や出現の瞬間はとらえられなくても、明るい月とアルデバランがすぐそばに輝くようすは道行く人の目を引いた。
また日本からは見られなかったが、3月9日のインドネシア皆既日食には世界中から多くの日食ファンが集まった。
2月12日に発表された史上初の重力波直接観測は、文句なしに今年No.1のサイエンスニュースといえるだろう。この発見は重力波天文学という新たなフィールドの幕開けであり、2017年には日本の重力波検出器「KAGRA」の観測開始も予定されている。来年度ノーベル物理学賞のスピード受賞なるかという点も注目だ。
一方、画期的成果を生み出すはずだったX線天文衛星「ひとみ」は2月17日の打ち上げから約1か月後に通信が途絶え、無念の運用断念となった。2020年打ち上げを目標とした後継機の計画も発表されており、期待したい。
今年4月に発生した熊本地震では天文施設も被害を受け、復興支援のためのクラウドファンディングなど支援の輪が広がった。東日本大震災に続き、危機的な状況下での天文界の社会的な役割を問う機会ともなった。
今年もまた一人、日本人宇宙飛行士がデビュー。7月7日の七夕にソユーズ宇宙船で地上から飛び立った大西卓哉さんは、4か月間のISS長期滞在で科学実験や補給船のキャプチャなど、さまざまな業務をこなした。2017年には、金井宣茂さんがISS長期滞在ミッションに従事する予定だ。
12月には「こうのとり」6号機、イプシロンロケット2号機による「あらせ」と立て続けに打ち上げに成功し、日本の宇宙ルートの安定運用を印象づけている。米・スペースX社によるロケット再利用計画など、民間による宇宙開発の新たな展開も注目される。9月には中国の宇宙ステーションモジュール「天宮2号」が打ち上げられ、翌月には2名の宇宙飛行士による長期滞在も実施された。2017年初頭にはアメリカの政権が交代する予定で、国際宇宙ステーション(ISS)や有人探査計画など同国宇宙政策の指針への影響も気になるところだ。
太陽系外に存在することが確定した惑星の数は3000個を越え、もはや「あるかどうか」ではなく、「どのような系外惑星を、どれだけ詳しく調べることができるか」が問われる時代に。そんな中、最も近い恒星の一つであるプロキシマケンタウリに惑星が発見され「人類の移住先候補?」としても話題を呼んだ。
太陽系外の世界のことが多くわかってきた一方、太陽系内でも新たな発見と謎は尽きない。木星の衛星エウロパで地下の海の存在を示唆する間欠泉が観測され、探査機「ドーン」の観測からは準惑星ケレスのさまざまな詳細も明らかに。木星にはNASAの「ジュノー」、火星には欧州とロシアの「TGO」が到着。金星では我らが「あかつき」が本格的に観測を開始し、ベールに包まれたビーナスの新たな姿を見せてくれている。
人類が送り込んだ探査機が太陽系内部のあらゆる場所から観測データを送ってくるこの頃、昨年冥王星のフライバイ観測を行った「ニューホライズンズ」は次のミッションに向けてさらに太陽系外縁へとつき進み、名前通りの「新たな境地」を切り拓こうとしている。9月には、順調に航行を続ける「はやぶさ2」を追うようにNASAの「オシリス・レックス」が小惑星ベンヌに向けて出発し、競い合うように太陽系探査の次なるフェイズの扉を開けてくれることだろう。
エンタメ系のところでは、プラネタリウムが舞台の「planetarian」や大彗星接近を背景としたSF「君の名は。」など、天文がらみのアニメ映画がヒット。こうした作品を通じてより多くの人が天文に親しむきっかけとしてもらえるのも、喜ばしいところだ。
2016年の訃報
- エドガー・ミッチェル 氏(2月4日。85歳)
米宇宙飛行士。アポロ14号で月面に降り立った。 - 長谷川一郎 氏(5月1日。88歳)
東亜天文学会元会長(関連ニュース)。 - 古川麒一郎 氏(6月29日。86歳)
位置天文学、天体力学、暦法研究者(関連ニュース)。 - ジョン・グレン 氏(12月8日。95歳)
アメリカ人宇宙飛行士として初めて地球周回軌道を飛行。「マーキュリー7」の一人(関連ニュース)。 - ヴェラ・ルービン 氏(12月25日。88歳)
米天文学者。ダークマターの存在を提唱した。
改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。
2017年はアメリカ皆既日食に、全国で見られる部分月食、明け方の惑星集合も。
2017年は、8月8日に全国で見られる部分月食や8月22日のアメリカ皆既日食がハイライトとなるほか、環の開き具合が最大になる土星、9月~10月の明け方の空で集う火星+水星+金星なども見ものだ。毎日の星空の見どころは好評販売中のムック「星空年鑑2017」でぜひチェックしよう。
アストロアーツの2016年
おかげさまで株式会社アストロアーツは、今年25周年を終え26年目に突入。さまざまなセールを展開したほか、「アストロアーツ 宇宙へ」プロジェクトでは、成層圏観測気球に搭載された主要ソフトのパッケージと「星ナビ」が「宇宙デビュー」を果たした。
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