全く撮影準備が整っていないのに突然オーロラは出るわ、彗星は出るわ。こんな現象は二度と遭遇出来ないかもと思うと、なおさら焦ってしまう。南極を目の前にしたこの地で、そんな体験をさせて頂いております。
突然ですが皆さん、何の前触れもなくオーロラが出現したらどうしますか?既にご紹介したように、ここクィーンズタウンでもオーロラが見られます。
オーロラが出現すると当然、急いで家に帰り撮影機材を揃えるわけですが、撮影準備が完了した時には、既にオーロラが終息気味だったことが何度もありました。カメラは何処だ、フィルムは何処だ、三脚は倉庫でレリーズは行方不明。最初の数年間はこんな事が何度もありました。これほど頻繁にオーロラが出現するとは思いもしなかったからです。大出現がある度に「カメラは何処だ・・・!」と始まるのです。
中でも一番痛かったのは、フィルムが一本も無かった時です。日本では近所にコンビニがあって、ネガフィルムならすぐに手に入りそうですが、ここはニュージーランドの田舎町。24時間営業の店と言えば遥か彼方のガソリンスタンドまで行かなければなりません。そしてフィルムを買い求めている間にオーロラは終息気味・・・。
何の前触れも無く突然現れるので対処できなかったわけですが、今から考えれば、最も美味しい瞬間を幾度となく逃してしまったのではないかと思います。今回はそんな撮影のドタバタをご紹介します。
あれは家内が生後6ヶ月の長男を連れて日本に里帰りしていた時の事です。2001年11月24日ですから、南半球はこれから夏を迎えようとしていた頃です。その時も星仲間からの一報で、大規模なオーロラの出現を知りました。
「ほら行けぇ〜!」とカメラや三脚、レリーズはすぐに見つかっても、フィルムが無い。探すと、生まれたばかりの長男を撮るために家内が買い求めていた、ISO200のネガフィルムが見つかった。もう選んでいる暇は無い。早速出撃だ。
しかし、しかしである。そのフィルムがあっという間に撮り終わってしまう程の大出現が続いたのです。全天が真っ赤に染まり、中でも南の空には火柱がそそり立っている。自宅から一歩出ただけで南の空が真紅に染まっていたくらいです。この時もフィルムは一本しかなかったのですが、その時友人が「こんな高感度フィルムは使わない」と言ってプレゼントしてくれたISO800のフィルムがあるのを思い出しました。急いで自宅に戻ると、午前1時40分なのに電話が鳴っていました。家族が里帰りをしていて、自宅には私しかいないことを知っていた友人からでした。そして電話の向こうで絶叫しています。「今、これオーロラですよね?」という確認の電話でした。見間違うことは無いはずの大出現でしたが、とにかく誰かに確認したかったのでしょう。
再度撮影地に戻ると、私に後悔の念がひしひしと押し寄せてきました。先程までの素晴しいオーロラは消滅しており、南の空では白い雲が地平線近くを覆っていました。「ああ、もっとフィルムを買っておくべきだった」と後悔したのです。暫く粘ってみたのですが、やはり赤いオーロラは二度と姿を見せませんでした。しかし、どうも怪しいのです。何がって、南の空の白い雲、こいつの動きが変なのです。最初は牧草地から出る水蒸気だと思っていたのですが、目を凝らすとどうも左右に動いているのです。そうなのです。これも立派なオーロラだったのです。自宅に取りに帰った高感度フィルムで撮影したものがこれです。見事な緑色のオーロラです。でも緑色のオーロラって肉眼では白色に見えるんですね。初めて知った瞬間でした。
突然出現したオーロラに対処出来ない事態が再びおとずれました。南の空、約20度の高さまで赤い火柱のオーロラが出現していました。その程度の出現なら過去に何度も撮影に成功していたので、もう少しオーロラが大きくなったら新品のフィルムを装填しようと思っていました。しかし、目の前の火柱はあっという間に天頂にまで達するオーロラへと成長したのです。サーキットのF-1撮影で鍛えられたフィルム装填速度には自信がありましたので、早速フィルムを取り出したものの、やはり目の前にそびえ立つ赤い火柱オーロラに惑わされたのか、装填にはかなりの時間を要し、結局シャッターを開いた時には小さなオーロラに変身していました。
そんなある日、掲示板でオーロラの出現がインターネットでわかるサイトがあると教えてもらいました。インターネットには98年から世話になっていたのに、まさかオーロラの生中継サイトがあるとは想像もつかず、それ以来オーロラの出現を含め、何でもインターネットで調べるようになりました。そして、撮影機材もいつでも持ち出せるよう準備を万全にしたのです。
そして、世紀の大彗星となったマクノート彗星を毎日撮っていたある日のこと。天候も最高で万全の体制を整え、まさに撮影に出発しようと思った矢先。車の鍵がないことに気付きました。もしやと思い、ハッチバックの荷物室にLEDライトを当ててみるとありました。荷物を積み込んだ時に一緒に置き去りにしてしまったのです。中閉じです。運悪く予備の鍵も朝から行方不明で、結局午前2時に針金を使ってドアをこじ開けようとしましたが、かなり騒々しいので断念。結局出撃を見合わせる羽目になってしまいました。今から考えると翌日の薄明開始まで80分という撮影時間でも出動していたら、彗星と赤/紫/緑色のオーロラとのランデブー撮影に成功していたかも知れません。
しかし、たまにはこのように失敗してみるのも悪くないですね。翌日は午前2時30分まで雨が降っていたにもかかわらず、再び出動。おかげでマクノート彗星とオーロラのランデブーを撮ることができました。もしあの日鍵を中閉じせず、そのまま撮影に大成功していたら、翌日の出動はなかったことでしょう。
次回は、ニュージーランドの星空を語る上で必要不可欠な人物をご紹介したいと思います。