南緯45度の星空案内人
第23回 「7等星が見える?クイーンズタウンへは」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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私が、この街クイーンズタウンでスターウォッチングツアーを始めて10年が過ぎました。今では年間数百名のお客様から私のツアーをご指名いただいています。ツアー中、とくに月のない暗夜に参加された方の中には、送迎車を降りるなり、感嘆の声、いや雄叫び、いや悲鳴を発せられる方が少なくありません。多くの方から「まさかあのような夜空が見られるとは思ってもいなかった」といった感想をよく聞きます。

自分も、天文同好会の幹事をしてた学生時代に、信州に合宿をしたり個人的に地方に行っては星を見ていました。ニュージーランドの永住権を取った後も、『Japan Rail Pass』というJR各社の列車(のぞみと寝台列車は不可)が乗り放題というチケットを利用して、毎年北海道の先端から九州の先端まで旅していますが、クイーンズタウンに匹敵する夜空はどこにもありません。いくら、地方の夜空でもです。

スターウォッチングツアーに参加される方のほとんどが、日本の人口密集地から来ていて、地方の方はそう多くありません。現地のガイドさんたちが「凄い夜空が見られます」と、私のツアーを勧めても、地方から来られた方々は、「ウチも田舎だから、星はたくさん見える」と予約には至りません。しかし、その「たくさん見える」度合いが全く違うことをご存知ないために、残念ながら、星に手が届きそうな夜空を見ないで帰られてしまいます。ガイドさんのお勧めを何故か拒み、地元の人が太鼓判を押す、素晴らしい景色を見られる場所に行こうともしません。

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早い話、何故ニュージーランドに来たのか理解に苦しむほどです。写真はクイーンズタウンから湖沿いに北上した所にある場所で撮影したものです。映画『ロード・オブ・ザリング』に出てくるアイゼンガルドは、写真の中央にある山の付近に設定されていました。

人それぞれの期待度は違いますし、すでに日程を完璧に決めて来る方もいるので、そういう人たちには“大きなお世話”と言われるかもしれません。しかし、その完璧な日程の情報源は、日本国内で購入した旅行ガイドブックだったり、インターネットだったり、テレビ番組を見たりして決められたものでしょう。それらは、一時的に日本からやって来るリサーチャーやスタッフが短期間で作り上げた突貫工事による情報です。それだけを信用される方は、目の前のチャンスをみすみす逃していることになるでしょう。それに気付くのは現地を離れる時や、日本に戻った後になるのです。ガイドさんの中には、この街に20年以上も住んでいる人もいて、まさに百戦錬磨の達人です。しかし、最近はそんな「匠のプロ」の話にさえ耳を貸さないお客様が後を絶たないのだそうです。

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また、すでに「北半球のどこかでスターウォッチングツアーを経験しているから、ここでは不要」という方もいます。大変残念でなりません。何故なら、この時季クイーンズタウンではさそり座といて座にある銀河の中心が天頂近くを通過するからです。星が一番美しく見えるのは、大気の影響をもっとも受けにくい天頂付近です。この写真は今年5月に赤外カットフィルターを取りはずした一眼デジカメで天頂を撮影したものです。

皆さんのお近くで、さそり座の尻尾といて座の南斗六星付近の間にある銀河の中心が、天頂付近を通過する所がありますか?物理的にあり得ません。

また、ここクイーンズタウンでは、日没時の太陽を肉眼で目視できません。なぜなら、太陽が明るさを保ったまま沈んでいき、決してオレンジ色に染まらないからです。皆さんの近くで太陽がオレンジ色にならない所があれば教えてください。地平線に昇ったばかりの青い星が、その青さをそのまま見せてくれるクイーンズタウン。空気の汚れはほとんどありません。なにせ工場なんて一つもない田舎ですから・・・。もし日本の空気がここと同じように綺麗なら、2月の東京湾に高度3度に昇ってくるカノープスが、真っ青な星に見えるはずです。ところが、マイナス27等星の太陽でさえオレンジ色になる所で、この星が青く見えるとは思えません。

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こちらに来てカノープスをご覧になってみてください。ツアー中にこの星を望遠鏡で見たお客様の中に、「1万カラットのブルートパーズ」と、そして、その右手に見えるシリウスを「2万カラットのダイヤモンド」と表現された方がいました。あまりにも光線が強いので、長い間レンズをのぞいていられないくらい明るいのです。75%という催行率でスターウォッチングツアーを運営している私でさえ、このシリウスを視野に導入する時に、眩しくて長い間レンズをのぞいていられないくらいです。写真右下の明るい星が「青星」ことシリウスで、中央下にある明るいのが「南極老人星」ことカノープスです。

私が京都の大学で天文同好会の部長をしていたころ、このシリウスを望遠鏡で何度も見ましたが、決して眩しいと思ったことはありません。しかし、ここは違います。眩しくてしかたがないのです。

当地はそのような場所ですから、いつも星野写真を撮り続けてしまいます。時には望遠鏡にカメラを取り付けて、直焦点撮影でもしたいのですが長続きしません。再び、カメラを望遠鏡から外して広角レンズを取り付け、また星野写真の撮影です。天の川の撮影をしているのに、時々赤いオーロラが写りこんで迷惑だと言ったのは、この街で志を同じくして星を撮影している友人が発した言葉です。確かに邪魔です。

太陽の活動は、2012年にピークを迎えると予想されています。この前後は天の川の撮影中に赤いオーロラが写り込むので、天の川の写真にはなりません。オーロラが邪魔だというのは過去にご紹介した通りです。そう、邪魔なオーロラが度々出現する前に天の川の写真を撮っておかなければならないのです。ここしばらくが勝負の年です。

こんな好条件が揃っている街、クイーンズタウンへは、飛行機で10時間+アルファーで到着します。ニュージーランドへは成田、関空から直行便が飛んでおり、ニュージーランド航空と日本航空による共同運航便です。また、アジアの航空会社も経由便を飛ばしていて、そちらは値段が少し安いようです。経由地はソウル、マレーシア、バンコック、シンガポール、ニューカレドニア、ハワイ、香港、シドニー、ブリスベン、ゴールドコーストなどでしょうか。2カ国訪問ができて、なおかつ安いので、大変お得だと思います。しかし、ほとんどの方が経由地に滞在されないのはなぜでしょうか?恐らく、過去に訪れたことがあるのでしょうね。そうニュージーランドにお越しになる方は、過去にアジアの訪問をされている方が多いのではないかと思います。直行便を選ばれる方は、初めての方が多いのではないかと。

現在、これらの航空機のほとんどが北島のオークランドか、南島の玄関であるクライストチャーチに着陸します。この2都市からクイーンズタウンまでは直行便が出ており、ジェット機でそれぞれ1時間45分と50分で来ることができます。

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日中は「世界のアクティビティの首都」と呼ばれている通り、100種類を超えるオプショナルツアーを楽しむことができます。バンジージャンプの発祥地だというのはご存じでしょうか?現在運営中のバンジージャンプは3ヶ所で、それぞれ43メートル、47メートル、134メートルという高さです。実は運営を中止しているバンジージャンプもあり、その中で最大なものが落差300メートル。ヘリコプターから飛び降りる「ヘリバンジー」です。なお、先日「羞恥心」のメンバーである上地雄輔さんが、テレビ撮影で134メートルのバンジージャンプを飛んだそうです。写真は街の裏山にあるゴンドラの山頂で行われているバンジージャンプです。

ミルフォードサウンドツアーしかないと思い込んでおられる方も少なくないでしょうが、もう少し調べてみてください。きっと皆さんの趣味心を満足させるアクティビティがあるはずです。美しい森では先日、“爽健美茶”のコマーシャル撮影が行われ、竹野内豊さんが来ていました。空港で彼と鉢合わせした家内が、「格好良くてシビレタ」と言ってました。どうも私を見てもシビレないそうです・・・。おじさんもがんばらないといけないのですが、これは美味いアイスクリームが原因です。現在キャイーンの天野君体型です。寒い時の撮影にはもってこいの体型なのですがね・・・。

次回は「南十字星が一年中沈まない」をお送りします。そうクイーンズタウンでは南十字座は決して地平線の下に消えないのです。そう今年も休暇の時期がやってきましたので、来月のスターツアーは若手に任せて、私は暫く旅に出ます。また7月にお会いしましょう。

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