第16回から約3ヶ月。何とか暗夜の数日間だけ、撮影に出かけることができました。その間にオーロラも無事出現。私は、赤外カットフィルターの除去手術を受けたデジタル一眼レフカメラ「キヤノン EOS Kiss X2」を楽しく使い始めました。
●ノイズリダクションをしなくてもノイズが少ない
まず、私が贔屓にしているペンタックスの新型カメラ「K20D」におけるノイズについて、コメントしましょう。
このカメラは、ペンタックスが受光素子に初めてCMOSを使った機種です。これまで使っていたカメラ、ペンタックス *istDsの後継機として選んだのですが、他社のCMOS採用機種とはかなり違っており、天体撮影には不向きだと判断しました。
昨年初頭、南半球で大化けしたマクノート彗星を追いかけていたときに、仲間が操るキヤノン EOS Kiss Digitalの性能に驚かされました。EOS Kiss Digitalはノイズリダクションをしなくても、ノイズが目立たない、とても綺麗な画像が目白押しなのに、私の*istDsは露出時間と同じ時間だけノイズリダクションに突入。全く撮影がはかどらない苦汁の時間を過ごしている間、友人はキヤノンのCMOS機で次から次へとシャッターを開けています。
そうだ、ペンタックスからCMOS機が出たら買おう…と思っていた矢先、先ごろニコンもCMOSにスイッチし、素晴らしい天体写真を目にする機会が増えました。このような状況に私は「CMOSは天体撮影に適している」と勝手に思い込むようになっていました。
しかし、K20Dの液晶に映し出された天体画像は、まるで砂嵐のようなすさまじいノイズを含んだものでした。7等星の彗星を撮ったつもりが、砂嵐の中で、どれが彗星核なのかまったくわかりませんでした。
仕方なく、同時に購入した「赤外カットフィルターの除去手術を受けたEOS Kiss X2」にスイッチし、撮影を続けました。また帰宅後にK20Dで撮影した画像をパソコンに転送し、EOS Kiss X2とノイズを比較してみました。K20Dはノイズリダクションが適用されているにも関わらず、ノイズリダクションをOFFにしているEOS Kiss X2の画像より数倍もノイズがひどく、何のためのノイズリダクションなのか! と、まったく使えないカメラを買ってしまったことを後悔しました。
左がK20Dで、右がEOS Kiss X2でそれぞれ撮影した写真を等倍でトリミングしたものです。ノイズの出方が全く違います。
それでも液晶の表示は明らかに異常なので、早速ペンタックス本社に掛け合い、後日ファームウェアを送付して頂きました。おかげで液晶の表示は改善されましたが、画質は*istDsよりもノイズがひどく、暗い天体の撮影には適さないと判断しました。今では昼光専用カメラになってしまいました。全てのCMOSが天体撮影に適しているとは口が裂けても言えないことがわかりました。高い授業料となりました。
今回初めてキヤノン機を使いましたが、流石です。ノイズリダクションもないのに、ひじょうにスムースな画質をしており、撮影がはかどります。寒い中での撮影時にはとてもありがたいです。ただし、赤外カットフィルターを除去してあるので、画像が全体的に赤く、フォトショップ等での画像処理が必要です。でないと単に赤いだけの写真になってしまいます。
●やはり赤いオーロラの光をも透過する
太陽のコロナホールから飛んできた風が地球に襲いかかり、地球磁場が強い南向きになると、ここクイーンズタウンでもオーロラが見られます。前々から狙っていた「改造カメラでのオーロラ撮影」、とうとうその日がやってきました。
赤外カットフィルターは星雲の赤を80%除去し、オーロラの赤を60%除去すると言われています。今回はその検証です。
昼間でも夏でも出現するオーロラ。ほとんどの人が『オーロラは気温が低くないと見られない』と勘違いされていると思いますが、白夜の無いニュージーランドでは一年中オーロラが出現するチャンスがあります。
しかし、今は太陽活動の極小期。出現のチャンスは突然やってきます。その瞬間を逃さないためにも、インターネットの検索は欠かせません。今は便利なサイトがあり、それを頼りにスクランブル出動しています。この日もそうでした。
いつもの撮影地は、すぐ近くにあるスキー場のナイター照明がまぶしく、撮影が不可能と判断し、この日は少し南下して湖岸に陣取りました。故に地平線スレスレに出現するオーロラの明るい部分が見えませんでしたが、このような写真が撮れました。
その際、液晶に浮かび上がった画像を見て、『やっぱり』と思うと同時に、全天オーロラが出現した時のことを考え、より広角なレンズの入手を決断しました。
オーロラの赤色の透過率はほぼ100%に近いと思います。これで上空200kmから400km辺りに出現すると言われている赤いオーロラを狙うことが可能となりました。またオーロラの最下段に出現するピンク色オーロラも、ほぼ透過してくれるものと推測されます。
これからアラスカ、カナダ北部、ノルウェーなどに出かけて、オーロラを撮影される方、なかでも「本気」の方は、このような手術を受けたデジタル一眼レフカメラをお持ちになるとよいでしょう。一般のデジタルカメラでも緑色オーロラの十数パーセントが遮断されるそうですが、気にしない方はこの話は忘れてください。
しかし、赤いオーロラを紫色に脱色させないためには、撮影はフィルムか改造カメラを使ってください。NASAが運営しているサイトSpaceWeather.comに毎月視聴者からのオーロラの写真が投稿されていますが、最近ではそのほとんどがデジタルカメラで撮影されたものになってきました。残念ながら緑色オーロラのすぐ下に出現するピンク色オーロラはほぼ全滅し、その上に出現する赤色オーロラが紫色に脱色しています。
●エータカリーナ星雲やその他の赤い星雲を撮る
今回、贔屓にしているペンタックス以外に、初めてキヤノンのカメラを手にしました。それは(これまでにも書きましたが)、この街クイーンズタウンで天体写真を撮る友人数名が、全てキヤノンのカメラユーザーで、しかもノイズリダクションなしで次から次へとシャッターを開けているからです。
ペンタックスは、ノイズリダクションを行わないと画質が悪く、そのギャップにとうとう負けてしまいました。と言ってもキヤノンのレンズは1本もないので、手持ちのペンタックスレンズが使えるようにと、マウントアダプターを買ってきました。
現在、このマウントアダプターを介し、ペンタックスのレンズをEOS Kiss X2に取り付けて撮影しています。ピント位置にかなりずれがありますが、ライブビュー機構が大変使いやすく、昔のようにすりガラスを当ててピント出しを行うような苦労もありません。しかし、ライブビューを使っている時のピント合わせは手際良くしたいものです。1分ほどで解除されてしまいますし、使い過ぎると内部の温度が上昇しノイズ発生の原因にもなるからです。
まあ、日没後は急激に温度が下がるクイーンズタウンなので、自然冷却も手伝ってか、さほど熱ノイズに神経質になる必要がないのもイケテます。
この改造カメラをニュージーランドに持ち帰ったのが7月初旬でした。今日まで何度もレンズを夜空に向けては、感動の連続でした。地平線に低くはなりましたが、エータカリーナ星雲から右に目を向けていくと、バット星雲、IC4618、出目金星雲、彼岸花星雲、干潟星雲、三裂星雲、オメガ星雲、わし星雲といった赤色星雲が横一列に並びます。これを順番に撮影して行くときの快感はたまりません。
南十字も逆さまになりつつあるころで、エータカリーナなどは地平高度16度まで低くなりますが、天頂付近にあるときの写り具合と何ら変わらないのが嬉しいです。この街の空気が本当に綺麗な証拠です。
露出時間も3分平均で、コンポジットなしの1発勝負です。ちなみに望遠鏡は毎度お馴染みのトミーテックが販売している ボーグ 77EDII + EDレデューサ F4DGです。実にすごい写りを目の当たりにしてます。そんな魔法のようなカメラと望遠鏡を使ってみて、「こりゃ借金してでも、もっと早くから導入しておくべきだった!」と思いました。現在では冷却機構がついている改造デジイチもあります。値段はそれなりにしますが、来年で45歳になることを考えれば、あと何年身体が思うように動くかも分かりませんし、早急に導入するべきものなのかもしれません。
このように空が澄んだ場所で死ぬまで満天の星に囲まれていたいものです。オーストラリアやオークランドへの栄転話を下さった方には大変申し訳ありませんが、私の決断は間違っていなかったと思います(笑)。
各界の話や撮影された実物の写真を見ても、今後天体用にはキヤノンを間違いなく選ぶでしょう。新型の50Dはかなり優れていると聞いています。私はX2を改造したばかりなので、しばらくこれで頑張ります。
太陽の高緯度に黒点が連続で出現しています。長かった極小期を脱して、早く次の活動期頂点がやって来ないかと待ち望んでいます。2012年以降が楽しみですね。「オーロラの出現を余すことなく全て記録してやるぞ!」、派手なライフワークに出会ってしまったものです。しかし、これだけ夢中になれて、自分でも嬉しく思っています。皆さんもいかがですか?ご近所さんになって、みんなで満天の星とオーロラを追い求めませんか?永住権の取得方法は、過去の原稿を読んでみて下さい。
次回は「眩いばかりの恒星と惑星」と題して、お話しします。