2003年の天体発見賞/天体発見功労賞

【2003年3月28日 国立天文台天文ニュース(626)

新しい天体の発見は、古くから人々の関心の的でした。また、天体の性質を明らかにする現代天体物理学の格好の対象を提供するたいへん重要な貢献でもあります。どこに出現するかわからない天体の発見は、主としてアマチュア天文家の方々が活躍しています。日本天文学会では、1936年から天体発見を表彰していて、今回、2002年度の発見に対する表彰式が日本天文学会春季年会(宮城県仙台市・東北大学)で行われました。今回は天体発見賞が13件、天体発見功労賞が5件の合計18件と、過去最多になりました。これはアマチュア天文家の皆さんの不断の努力の賜と言えます。

日本での天体発見は大正時代以前にもありましたが、発見が世界に広く報告されるようになったのは昭和以後です。日本天文学会では、1936(昭和11)年に日本で相次いで彗星と新星が発見されたのを契機に、天体発見賞を制定しました。現在では、世界最初の発見に天体発見賞を、他の発見者に遅れたものの独立に発見された場合には天体発見功労賞を贈呈しています。

1947年に本田實(ほんだみのる)さんが彗星を発見し、敗戦に沈む日本を勇気づけたことは広く知られています。また、この半世紀で最も明るくなった新星である「1975年はくちょう座新星(はくちょう座V1500)」を発見したのは、当時高校生の長田健太郎(おさだけんたろう)さんでした。さらに、1965年秋の夕空を飾った池谷-関(いけや-せき)彗星、1996年春の百武(ひゃくたけ)彗星など、記録的な大彗星も多数あります。これらの発見にはすべて天体発見賞が贈られています。

2002年1月〜12月期の天体発見賞・天体発見功労賞および天文功労賞受賞者紹介

資料作成:山岡均(やまおかひとし; 天体発見賞選考委員会)

注:日付・時刻はすべて世界時。敬称略

天体発見賞<13件>

  • 佐野康男(さのやすお):1件
    超新星2002anの発見
    2002年1月22.52日に28センチメートル望遠鏡を用いて撮影したCCD画像から、かに座の銀河NGC2575に16.1等の超新星を発見、超新星2002anと命名された。
    2002/01/28 - 佐野さん、超新星を発見(速報) (NAOニュース)
  • 広瀬洋治(ひろせようじ):1件
    超新星2002apの発見
    2002年1月29.4日に25センチメートル望遠鏡を用いて撮影したCCD画像から、うお座の銀河M74 = NGC628に14.5等の超新星を発見、超新星2002apと命名された。
    2002/02/04 - 広瀬さん、明るい超新星を発見 (NAOニュース)
  • 串田麗樹(くしだれいき):2件
    超新星2002crの発見
    2002年5月1.701日に40センチメートル望遠鏡を用いて撮影したCCD画像から、おとめ座の銀河NGC5468に16.5等の超新星を発見、超新星2002crと命名された。
    2002/05/07 - 串田麗樹さん、超新星を発見(NAOニュース)
    超新星2002fkの発見
    2002年9月17.719日に撮影したCCD画像から、エリダヌス座の銀河NGC1309に15.0等の超新星を発見、超新星2002fkと命名された。
    2002/09/19 - 串田麗樹さん、また超新星を発見(NAOニュース)
  • 土井隆雄(どいたかお):1件
    超新星2002gwの発見
    2002年10月13.27日に30センチメートル望遠鏡を用いて撮影したCCD画像から、ろ座の銀河NGC922に17.0等の超新星を発見、超新星2002gwと命名された。
    2002/10/21 - 土井さん、超新星を発見(NAOニュース)
  • MISAOプロジェクト:1件
    2001年のケフェウス座の新星らしき天体の発見
    2001年9月19.56日に500ミリメートル望遠レンズを用いて撮影したCCD画像から、ケフェウス座に12.7等の新星らしき天体を発見、報告した。
    2002/11/12 - 吉田さん、新星と思われる天体を発見(NAOニュース)
  • 長谷田勝美(はせだかつみ):2件
    新星へびつかい座V2540の発見
    2002年1月24.838日に100ミリメートル望遠双頭カメラを用いて撮影した写真から、へびつかい座に9.0等の新星を発見、へびつかい座V2540と命名された。
    2002/01/28 - 長谷田さん中村さん、新星を発見(速報) (NAOニュース)
    新星いて座V4743の発見
    2002年9月20.431日に120ミリメートル望遠レンズを用いて撮影した写真から、いて座に5.0等の新星を発見、いて座V4743と命名された。
    2002/09/24 - 長谷田さん、いて座に肉眼等級の新星を発見(NAOニュース)
  • 板垣公一(いたがきこういち):1件
    NGC205(=M110)の新星らしき天体の発見
    2002年10月5.56日に60センチメートル望遠鏡で撮影したCCD画像から、アンドロメダ座の銀河NGC205(=M110)に16.4等の新星らしき天体を発見した。
    2002/10/07 - 板垣さん、新星と思われる天体を発見(NAOニュース)
  • 池谷薫(いけやかおる):1件
    周期彗星153P/2002 C1(Ikeya-Zhang)の発見
    2002年2月1.408日に、25センチメートル望遠鏡を用いて、9.0等の彗星を眼視で発見、C/1661 C1と同定され、153P/2002 C1(Ikeya-Zhang)と命名された。
    2002/02/04 - 池谷さん、明るい新彗星を発見 (NAOニュース)
  • 宇都宮章吾(うつのみやしょうご):1件
    彗星C/2002 F1(Utsunomiya)の発見
    2002年3月18.844日に、15センチメートル双眼鏡を用いて、10.0等の彗星を眼視で発見、C/2002 F1(Utsunomiya)と命名された。
    2002/03/22 - 宇都宮さんも、新彗星を発見(NAOニュース)
  • 鈴木雅之(すずきまさゆき):1件
    彗星C/2002 O6(SWAN)の発見
    2002年7月25日に撮影されたSOHO探査機のSWAN検出器の公開画像から、9等の彗星を発見、C/2002 O6(SWAN)と命名された。
    2002/08/05 - 鈴木さん、新彗星を発見(NAOニュース)
  • 工藤哲生(くどうてつお):1件
    彗星C/2002 X5(Kudo-Fujikawa)の発見
    2002年12月13.833日に、12センチメートル双眼鏡を用いて、9.5等の彗星を眼視で発見、C/2002 X5(Kudo-Fujikawa)と命名された。
    2002/12/16 - 工藤さん、新彗星を発見(NAOニュース)

天体発見功労賞<5件>

  • 村上茂樹(むらかみしげき):1件
    彗星C/2002 E2(Snyder-Murakami)の独立発見
    2002年3月11.806日に、46センチメートル望遠鏡を用いて、彗星C/2002 E2(Snyder-Murakami)を11等で眼視で独立に発見した。
    2002/03/13 - 村上さん、新彗星を発見(NAOニュース)
  • 藤川繁久(ふじかわしげひさ):1件
    彗星C/2002 X5(Kudo-Fujikawa)の独立発見
    2002年12月14.858日に、16センチメートル望遠鏡を用いて、彗星C/2002 X5(Kudo-Fujikawa)を9等で眼視で独立に発見した。
    2002/12/17 - 新彗星は工藤・藤川彗星に(NAOニュース)
  • 中村祐二(なかむらゆうじ):1件
    新星へびつかい座V2540の独立発見
    2002年1月24.867日に200ミリメートル望遠レンズを用いて撮影した写真から、新星へびつかい座V2540を9.3等で独立に発見した。
    2002/01/28 - 長谷田さん中村さん、新星を発見(速報) (NAOニュース)
  • 広瀬洋治(ひろせようじ):1件
    超新星2002boの独立発見
    2002年3月9.505日に25センチメートル望遠鏡を用いて撮影したCCD画像から、超新星2002boを15.5等で独立に発見した。
    2002/03/14 - 広瀬さん、またも超新星を発見(NAOニュース)
  • 串田麗樹(くしだれいき):1件
    超新星2002dbの独立発見
    2002年5月24.729日に撮影したCCD画像から、超新星2002dbを16.9等で独立に発見した。

<天文功労賞>

長期的な業績:

  • 広瀬敏夫(ひろせとしお):
    星食・掩蔽の観測と指導
    1967年に掩蔽観測グループを創設して以来35年間、星食、接食および小惑星による掩蔽の観測を行ない、なおかつ観測指導を多くのアマチュアに対して行なっている。1987年以降、天文雑誌で星食観測ガイドの執筆を継続しており、この記事をきっかけに掩蔽の観測を始めた観測者も数多い。月縁や惑星の精測位置、小惑星の形状の決定など、天文学に対する貢献がたいへん大きい。

短期的な業績:

  • 早水勉(はやみずつとむ):
    土星の衛星テティスによる掩蔽の観測指揮
    2002年12月15.8日UTに日本で起きた土星の第3衛星テティスによる恒星食に対して、現象の数日前に出された予報の配布、観測呼びかけを行ない、国内7地点で実際に食をとらえることに成功した。惑星の衛星による食が観測されたのは日本では初。さらに氏は、報告に基づく整約を迅速に行ない、テティスの実直径1060キロメートルによくフィットする円弧が得られた。掩蔽帯はヨーロッパにも達していたが、当地での観測成功は2地点に留まっている。広く分布した多数の観測者を必要とする掩蔽観測を成功に導くにおいて、氏の貢献は非常に大きい。
    2002/12/19 - 土星の衛星テティスによる恒星食の観測に成功(NAOニュース)

<参照>

  • 天文月報 2003年4月号 ほか