可視光でクリアに観測 国立天文台などが技術開発

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【2012年5月17日 国立天文台

国内の研究チームが、大気の揺らぎを補正して精度を上げる「補償光学」を適用した本格的な可視光観測に成功した。従来は主に赤外線観測で使われていた補償光学を可視光観測で使用することで、銀河の詳細な構造や遠方銀河の形成過程の解明に大きく貢献すると期待される。


球状星団M3

りょうけん座にある球状星団M3の補償光学装置非使用時(左上図)と使用時(右上図)の画像。下は一部領域の拡大図。補償光学なしでは分解できなかった星が、補償光学を使うことできれいに分離できていることがわかる。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同)

活動銀河核を持つ銀河NGC4151

中心に活動銀河核を持つ銀河NGC 4151を、補償光学と面分光機能を使って観測して得られた画像。左の4枚の図が補償光学装置非使用時、右の4枚の図が補償光学装置使用時。(左上)星や活動銀河核から放射される連続光の波長、(右上)水素輝線の波長、(左下)硫黄輝線の波長、(右下)アルゴン輝線の波長、でそれぞれ見たもの。クリックで拡大

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、愛媛大学、国立天文台の研究開発チームが、今まで赤外線観測装置でしか利用できなかった補償光学観測を、可視光波長で行うことに成功した。

地球の大気を通して宇宙を見る天体望遠鏡は、大気の揺らぎのため、そのままでは望遠鏡が本来もつ空間解像力を十分に活かせない。その大気の乱れの影響をリアルタイムで補正して、本来の空間解像度を達成する技術が「補償光学」だ。米ハワイにあるすばる望遠鏡をはじめとする世界中の大型地上望遠鏡で補償光学装置の開発が行われ、科学的成果を多く生み出している。

しかし従来、こうした補償光学を利用できるのは赤外線波長を観測する装置に限られており、可視光波長では利用できなかった。赤外線より波長の短い可視光線では、細かい長さスケールかつ短い時間間隔で大気揺らぎを補正しなくてはならず、補償光学装置の性能が同じであっても赤外線より効果が得られにくいために、補償光学装置に接続した本格的な可視光観測装置はこれまで実現していなかったのだ。

研究開発チームは、すばる望遠鏡に搭載された高性能な「188素子補償光学装置」を使えば可視光波長でも空間解像度が改善するのではないかと考えた。コンピュータシミュレーションでもうまくいくとの結果が出たことを受け、可視光で補償光学観測を行うために、「京都三次元分光器第2号機」と188素子補償光学装置を接続する開発を進めた。

京都三次元分光器第2号機は通常の撮像・スリット分光観測だけでなく、正方形に近い視野で分光を行い天体の詳細構造を明らかにする「面分光観測」を行うことができる。これを188素子補償光学装置と接続することで、可視光波長での面分光観測を高解像度で行うことができる。

今年4月3日に行った試験観測で、可視光波長での本格的な補償光学観測に初めて成功(画像)。補償光学の効果が大きいものでは、空間解像度が0.5秒角から0.2秒角へと大幅に改善していた。

研究開発チームは、これらの装置の組み合わせで観測を行うことで、特に近傍銀河の詳細な構造や遠方銀河の構造形成のさらなる解明に向けて研究を進めたいという。

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