120億光年かなたに見つかった最遠方の超新星残骸
【2012年8月2日 東京大学】
国内の研究チームがすばる望遠鏡を用いて、観測史上最も遠方となる約120億光年かなたに超新星残骸を発見した。手前の天体の重力をレンズとして利用する手法で、銀河が活発に作られていた100億年以上前の宇宙史を明らかにできると期待される。
東京大学、京都産業大学、国立天文台、東京理科大学の研究者からなるグループは、ハワイのすばる望遠鏡を用いて119億光年先に存在するクエーサー(遠方銀河の中心にあり、非常に明るい放射をする活動銀河核の一種)を観測し、赤外スペクトルを分離して取得することに世界で初めて成功した。
このクエーサーB1422+231は、地球からは37億光年先の銀河付近を通して見える。すると銀河の重力のためにクエーサーの光が曲げられ(重力レンズ効果)、4つの像に分裂して見える。4つの像のうち今回取得した像AとBのスペクトルを調べると、クエーサーより0.5億光年手前に位置するガス雲にマグネシウムや鉄といった重元素が含まれている痕跡が吸収線(スペクトル中の暗い線)として現れていた。また、過去のアメリカのチームが取得していた同クエーサーの像AとCの可視光スペクトルと併せて、ガス雲の大きさや運動も明らかになった。
これら重元素の存在や運動のようすから、ガス雲は超新星爆発の残骸であると考えられる。とくに鉄が多く含まれていることから、超新星爆発のなかでも鉄を多く放出すると知られているIa型超新星爆発(恒星の重力崩壊ではなく、白色矮星が起こす暴走的核融合で発生するタイプ)の残骸であることが示唆される。これまでに発見されていた最遠のIa型超新星の記録は約93億光年先で、今回の約120億光年という距離はこれを大幅に更新した。
今回の発見は、重力レンズ効果によって約400倍に拡大された超新星残骸を、吸収線といういわば“影”によって見るという斬新な方法によって初めて可能になったものだ。Ia型超新星は宇宙における元素合成や物質循環の基礎となる重要な現象であり、約120億年前という宇宙が誕生して間もない時代においてすでにIa型超新星が起こっていることを世界で初めて観測的に明らかにした今回の研究は、我々の周りに存在する多くの元素の起源を探るうえで重要な成果となる。
研究チームでは今後、多くの重力レンズクエーサー(重力レンズ効果を受け複数像に分かれて見えるクエーサー)の分光観測を進め、100億光年以上先の遠方宇宙におけるガス雲の物理状態や銀河形成史の解明を引き続き進めていく予定だ。