「ペルセウス腕」、天の川銀河の平均回転速度より遅かった
【2015年4月22日 国立天文台VERA】
天の川銀河には、太陽系が位置する「オリオン腕」や「いて腕」など、いくつかの渦巻き状の「腕」がある。「IRAS 22555+6213」は、そのうちの「ペルセウス腕」にある大質量星形成領域だ。
国立天文台ALMA東アジア地域センターのJames O. Chibuezeさんを中心とした研究グループは、国内の複数の電波望遠鏡を組み合わせたVERAを用いてIRAS 22555+6213の水メーザー観測を複数回行い、年周視差や天体の運動速度を計測した。その結果、年周視差が0.314±0.070mas(mas:ミリ秒=角度の1秒(3600分の1度)の1000分の1)と測定され、星形成領域までの距離が約1万光年と算出された。
また、天体の銀河回転速度を精密に測ったところ、平均的な銀河回転速度よりも毎秒30kmほど遅いことがわかった。この現象は過去にも他の天体で示唆されていたが、今回の観測結果によって「ペルセウス腕」全体の運動が銀河回転より遅れていることが明確になった。なぜ遅れているのか原因は不明だが、「ペルセウス腕」の重力に起因するなどの説が考えられている。
〈参照〉
- 国立天文台VERA: 大質量星形成領域 IRAS 22555+6213 の観測により"ペルセウス腕"の回転速度を精密に測定
- The Astrophysical Journal Letters: Trigonometric Parallax of IRAS 22555+6213 with VERA: 3-Dimensional View of Sources Along the Same Line of Sight 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台VERA: http://veraserver.mtk.nao.ac.jp/
- JAXA宇宙科学研究所 電波天文グループ: http://wwwj.vsop.isas.jaxa.jp/
- VLBI用語集: メーザー
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