オシリス・レックスの着陸候補地点を4か所選定
【2019年8月14日 NASA】
NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」は2018年12月に小惑星「ベンヌ」に到着して以来、ベンヌ全球の地形を観測し、試料採取を安全に行える場所を探してきた。今回選定された4か所の候補地点にはそれぞれ、「Nightingale(サヨナキドリ)」「Kingfisher(カワセミ)」「Osprey(ミサゴ)」「Sandpiper(シギ)」と名付けられている。すべてエジプトに生息する鳥の名前だ。探査機の名前(OSIRIS-REx)と小惑星の名前(Bennu)はエジプトの神々にちなんだもので、ベンヌ表面の地形には神話に登場する鳥の名前が付けられることになっている。
名前 | 緯度 | 特徴 |
---|---|---|
Nightingale | 北緯56度 | 4つの中で最も北にある。試料採取できそうな場所が複数存在する。直径140mの大きなクレーターの内部にある小クレーターの内側の地点。粒子が細かく暗い色をした物質が存在していて、反射率や表面温度は4地点の中で最も低い。 |
Kingfisher | 北緯11度 | ベンヌの赤道に近い小クレーターの内部にある。このクレーターは直径8mで岩塊に囲まれているが、エリア内には大きな岩はない。4か所の中で含水鉱物のスペクトルが最も強い。 |
Osprey | 北緯11度 | 直径20mのクレーターの中にある。試料採取できそうな場所が複数存在する。周囲に様々なタイプの岩石が存在するため、「Osprey」内部の砂(レゴリス)も様々な種類からなる可能性がある。4か所の中で炭素質の物質のスペクトルが最も強い。 |
Sandpiper | 南緯47度 | 直径63mの大きなクレーターの壁の上にある比較的平らな場所。含水鉱物が存在していて、変成を受けていない水に富んだ物質を含む可能性がある。 |
当初、地球からの観測では、ベンヌの表面には粒子の細かい物質が堆積した大きな平坦地がありそうだと推定されていた。しかし、オシリス・レックスがベンヌに到着して表面を撮影したところ、ベンヌの地形は岩だらけであることが明らかになった。そのため、岩塊で埋め尽くされたベンヌの表面で、サンプリングできる物質が存在する安全なエリアを見つけることが運用チームの挑戦となった。
「ベンヌの表面が想定外の状況かもしれないことはわかっていたので、表面がどんな状態であっても対応できる準備はしていました。どんな探査ミッションでもそうですが、未知の事態に対応するためには、柔軟さとリソース、そして創意工夫が必要です。『オシリス・レックス』チームはベンヌへの旅を通じてずっと、予想外の事態を乗り越えられる実力があることを示してきました」(オシリス・レックス主任研究員、米・アリゾナ大学 Dante Laurettaさん)。
こうした予想外の事態に対応するため、オシリス・レックスのミッションの日程には300日以上の余裕が見込まれていた。プロジェクトチームでは、もともと今夏までに着陸地点を2か所まで絞り込む予定だったのを変更し、今回4か所の候補地点を選び出した。今後4か月かけて4地点を詳しく調査する。特に各地点の高解像度観測を行って、粒子の細かい物質が存在する場所を特定することに重点を置くという。4地点の安全性を評価するにあたっては、今年初めに一般のボランティアも参加して作成されたベンヌ表面の岩塊の分布図も活用された。
さらに、運用チームは探査機の航法誘導の方法も変更した。もともとの計画では着陸地点として半径25mの円を想定していたが、この広さで岩塊のない場所はベンヌにはまったく存在しなかったため、チームは半径5〜10mの範囲で平坦なエリアを探し出すことにした。こうした狭い場所へ探査機を正確に着陸させるため、チームでは探査機の航法誘導の要求精度も厳しくし、「ブルズアイTAG」と名付けられた新たなサンプリング方法を編み出した。これは、ベンヌ表面の画像を使って、探査機が表面に接地するまで高い精度で誘導し続けるというものだ。これまでの運用実績から、新たな要求精度を十分クリアできる見込みだ。
オシリス・レックスの試料採取方法は「タッチ・アンド・ゴー(Touch And Go; TAG)」と呼ばれている。探査機本体から「TAGSAM」と呼ばれるアームを伸ばし、その先端をベンヌの表面に接地させる。接地する時間はわずか5秒程度だ。アームの先端には鍋の蓋のようなカバーが取り付けられていて、接地すると同時にカバーの内側に窒素ガスを噴射する。これによってベンヌ表面の物質が巻き上げられ、カバー内にキャッチされる仕組みだ。TAGSAMで取り込める物質は、粒径が2.5cm以下のものに限られる。
「オシリス・レックスはもともと、小惑星表面の砂浜のような場所でサンプルを採取することを想定して設計されていますが、これまでのたぐいまれな運用結果からみて、岩だらけのベンヌという困難にも打ち勝つことができるでしょう。探査機や観測装置が素晴らしいだけでなく、ベンヌから投げかけられる困難を常に乗り越え続けてきた運用チームも素晴らしいものです」(プロジェクトマネージャー Rich Burnsさん)。
今回選ばれた4地点は、地理的な位置も地質学的な特徴も異なっている。採取可能な物質がどのくらいの量存在しているかはまだわからないが、4か所とも徹底的に安全評価が行われ、探査機が降下して表面に接地し、サンプルを採取しても安全であることは確認済みだ。
今秋には、この4地点の詳細な分析を行う「偵察」フェーズが始まる。このフェーズの第1段階では、探査機は4地点を高度1.29kmから観測し、着陸の安全性や試料採取が可能であることを確認する。また各地点の近接撮影も行われ、探査機を自動誘導する際に目印となる特徴的な地形もマッピングする。この観測で得られたデータを使って、最終的に第1候補地点と予備地点の計2か所が12月に決定される予定だ。
偵察フェーズの第2・第3段階は来年初めから始まり、最終候補地点の2か所を低高度から観測してより解像度の高いデータを得る。試料採取は来年の後半になる見込みで、地球にサンプルを持ち帰るのは2023年9月24日の予定だ。
(文:中野太郎)
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