新鮮な小惑星表面、10年間で日焼けせず
【2022年11月7日 JAXA宇宙科学研究所】
雨風のない宇宙空間でも、小惑星などの表面は太陽風や微小隕石の衝突などによる「宇宙風化」を受け、明るさや色が変化することがわかっている。2010年12月に数十mの小天体が衝突した小惑星「シャイラ((596) Scheila、シーラとも)」は、近赤外線(0.8~2.5μm)のスペクトルが衝突前後で変化しているが、これも長年にわたる宇宙風化作用を受けていた表層が新鮮な物質で置き換えられたのだと解釈されている(参照:「衝突により表層が新鮮になった小惑星」)。
これまで、宇宙風化の研究は主に室内実験によって進められてきたが、実験では本来数千年~数千万年かけて起こる作用を数秒~数時間でサンプルに及ぼしている。そのため、正しい結果を再現できているかについては疑問が付きまとう。シャイラで未風化の新鮮な物質が露出したことは、宇宙風化が現実にどのように進行するかを検証する絶好のチャンスだ。
JAXA宇宙科学研究所の長谷川直さんたちの研究チームは、衝突から10年以上経過した今年にNASAの赤外線望遠鏡施設(IRTF)でシャイラの近赤外スペクトルを、国立天文台石垣島天文台(沖縄)のむりかぶし望遠鏡で可視光線域のスペクトルを取得して、宇宙風化作用による変化を調べた。
その結果、衝突直後と現在で可視光線のスペクトルに変化はなく、近赤外線でもスペクトルの形状は誤差の範囲内に収まっていた。シャイラは表面の反射率が低く暗い天体だが、このタイプの小惑星では、10年程度では宇宙風化作用によるスペクトルの変化は見られないということになる。スペクトルが変化しなかったことは過去の実験の予測範囲内であり、室内実験の正当性も(少なくとも約10年の時間スケールでは)示す結果となる。
宇宙風化の進み方としては、常に一定の割合で作用する「線形的変化」と、最初は急激に進んで徐々にペースが落ちる「対数的変化」といったパターンが考えられるが、今回の結果は線形的変化が正しいことを示唆している。その場合、1000年程度では宇宙風化作用によるスペクトルの変化は顕著に起こらないはずだ。つまり、シャイラのような小惑星では、表層が置き換わってから1000年経っても「新鮮」ということになる。
小惑星への衝突と言えば、NASAの探査機「ダート」が小惑星「ディモルフォス」に衝突したことは記憶に新しいが、これに伴い多くの物質が飛び出し、ディモルフォスの表面も一新されたと考えられる。ディモルフォスのスペクトル型はシャイラとは異なるものの、室内実験では数千年程度の宇宙風化ではスペクトルは変化しないという結果が出ている。シャイラの観測結果もこれを補足するものだ。ヨーロッパ宇宙機関の探査機「ヘラ」がディモルフォスに到達する2026年になっても、新鮮な表層を観測できそうだ。
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所:10年間での日焼け具合 暗い小惑星表面の10年間での宇宙風化作用によるスペクトル進化
- 石垣島天文台:むりかぶし望遠鏡で小惑星(596)Scheilaを観測
- The Astrophysical Journal Letters:Spectral Evolution of Dark Asteroid Surfaces Induced by Space Weathering over a Decade 論文
〈関連リンク〉
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