小惑星イトカワの特殊な地形の謎、解明

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小惑星「イトカワ」の地形は滑らかな部分とごつごつした部分に極端に二分されている。小さな砂礫が大きな岩にぶつかると大きく跳ね返り、砂礫の多い場所では砂礫の中に沈み込んで「ふるい分け」が起こることが理由という説が発表された。

【2017年3月15日 沖縄科学技術大学院大学

2005年に探査機「はやぶさ」が撮影した小惑星「イトカワ」の姿は、科学者たちの予測に反して、表面に砂礫が堆積する滑らかな地域と、ごつごつした岩の集まる地域の二つに極端に分かれたものだった。さらに不思議なことに、高地には大きな岩が集まり、低地には砂礫(砂や小石)が集まっているという、重力に対して横方向のふるい分け現象が見られた。

イトカワ
小惑星「イトカワ」(提供:ISAS/JAXA)

これまでは、イトカワ表面のふるい分けは「ブラジルナッツ効果」によって起こったと考えられてきた。大きさの異なる粒子を混ぜて重力のある場所で垂直に振動させると、粒子がその大きさによって分離するという現象のことだ。しかし、この効果だけでは表面に浮き上がった岩と小さな砂礫とが重力に対して横方向に分離する現象は説明不可能だった。

「はやぶさ」が撮影した写真から、イトカワの表面に見られる岩や砂礫の面積はほぼ同等であることが見てとれる。つまり、数の上では大きな岩よりも小さな砂礫のほうが多く、小惑星上で発生する衝突の多くは小さな砂礫によるものということになる。その衝突の際、砂礫は岩にぶつかると大きく跳ね返るが、砂礫の面に落下するとその勢いが吸収されてその場にとどまる。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)のPinaki Chakrabortyさんたちの研究チームはこのメカニズムを「反跳選別現象(ballistic sorting)」と名付け、これがイトカワ表面の岩や砂礫の横方向のふるい分けが起こる理由であると考えた。

反跳選別現象の説明図
「反跳選別現象」の説明図(提供:OIST)

反跳選別現象の検証として砂粒をセラミック皿の上に落とし、砂粒が岩や砂のかたまりに衝突する様子を再現したところ、砂粒が皿に直接落ちた時には岩と同様に跳ね返りが生じたが、砂のかたまりにぶつかると吸収されて砂山と一体化することが確かめられた。また、不規則に並べた石の上に砂粒を落とす実験により、最初に砂山が形作られるとその後に落ちる砂粒がそこに堆積して成長が加速されていくことも示された。

さらにコンピュータシミュレーションから、地球よりも重力が大幅に弱いイトカワの表面でもこの現象が同様に働き、岩にぶつかった小石は砂礫にぶつかった場合よりも遠くに跳ね返ることが実証された。

これらの実験とシミュレーションの結果に基づき、砂礫がゆっくりと堆積した場合には反跳選別現象によって予想通りの平らな「海」が形成されるという結論が得られた。

「今回の研究成果は、今後の宇宙探査、とくに探査機が小惑星に着陸する場所を決定するのに重要な意味をもつと言えます。NASAの探査機『オシリス・レックス』が向かっている小惑星『ベンヌ』や、『はやぶさ2』が目指す小惑星『リュウグウ』、2021年にNASAが打ち上げを予定している木星のトロヤ群小惑星の探査にも役立つでしょう」(Chakrabortyさん)。

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