Ironwood Remote Observatory Hawaii
第5回 「ハワイ独特の天候」

Writer: Ken Archer氏

《Ken Archerプロフィール》

米国・ハワイ州オアフ島在住。アロハ航空の機長を務めるかたわら、自宅に天文台を建設して以来、その性能向上に力を注いできた。リタイヤ後の今は、天文台の自動制御に関連したビジネスを展開している。ホームページ「Ironwood Observatory」を開設中。


今回は、まずハワイの天候がどれほど他の地域と違うのかを説明し、なぜリアルタイムで天気をモニターするシステムを開発することになったのかお話しましよう。

ハワイ独特の天候

おそらく、読者のみなさんの多くはハワイに一度かそれ以上訪れたことがあると思います。ハワイの気温が一年を通して大きな変動がないことはお気づきでしょう。ハワイには、基本的に季節が2つあります。通常5月から10月のまでの間が夏、10月から4月までが冬です。

ハワイの気候は、一年を通して温暖で適度な湿度があり、たえず北東の貿易風が吹いています。また、それほど離れていない場所で雨の降り方にかなりの差があり、それほど多くはありませんが、ひどい嵐も起こります。

ハワイは、一日の長さと温度が年間を通して比較的一定した熱帯地方に位置していて、もっとも長い時で一日が13時間半で、もっとも短い日で11時間です。

地形

ハワイの山々は、天気に影響しています。延々と続く峰々、谷、尾根、傾斜、これらがハワイの天気を周囲の海上と違うものにしています。また島によっても、天候は異なります。島が同じ大きさで平坦な場合、このような気候の違いは起こりません。

風は山々にぶつかり向きを変えることで加速されます。そして、暖かく湿気を含んだ空気が、風上の沿岸から斜面に向かって上昇すると、雲と降雨の量は海上より多くなります。一方、風下にあたり、空気が下降する地域では、晴れが多く乾燥します。

このような地形に囲まれた場所では、周囲に何もない場所に比べて、大気の動きがかなり違います。気温は、高度が300m高くなるごとに3度下がります。ハワイの山々は海抜約4000mに位置するため、気候は熱帯性気候から亜北極帯性気候に入ります。

降雨

沿岸から離れた海上では、年間平均降雨量が650mmから750mmです。島によっては、15倍も降る島もあり、逆に3分の1しか降らない島もあります。これは地形性降雨によるものです。湿気を含んだ貿易風が海から島の急峻な山々にむかって吹くためです。

また、上部の斜面や尾根では、その量は最大となり、風下の低地では、もっとも少なくなります。高い山々では、もっとも雨の降る範囲は高さ600から900mの間で、それ以上の高度となると急激に雨の量が減ります。その結果、高い場所の斜面では比較的乾燥することになります。

そのほかの雨を降らせる要因としては、山々の上にできる積雲があります。もっとも、積雲による雨は、集中的でしかも短時間であり降雨の範囲も限られます。

このように、さほど離れていない場所でも、地形や雨を降らす雲の位置によって大きな違いが生じます。

また、年間平均降雨量が一番多い場所で豪雨となるわけではありません。比較的乾燥した地域で、数時間から一日の間で年間降雨量の半分を越える雨が降ることもあります。

天気をモニターする

初めてIronwood Observatoryを建設した際、機材をモニターしつつドームを開けておくために、一晩中天文台の中にこもっていました。また、当時はほうきの柄を使ってスリットを開け、手でドームを押していました。

その後、ドームを制御するシステムを購入して、ソフトウェアを改良して、仮眠をとれるくらい安心できるようになったものの、それでも外へ出て晴れているか、急な雨雲が近づいていないか、気象情報をチェックし、さらに目覚まし時計をセットしてはドームを閉じる日々が続きました。

ある晩寝ていると、屋根を激しく打つ強い雨音で目が覚めました。もちろん、雨はドームの中にも入ってきました。外へ駆け出した私は、ひどい雨と、見上げた上空に雲が見当たらないことに驚きました。そのとき、確かに上空の空は晴れていたのです。雨は、貿易風にのって山を越え、雨雲のある場所から北東に位置するこちらに運ばれてきたのです。遠くには、雲が見えていました。

これは、地形性の雨です。ハワイでは海から吹き飛ばされてくる雲によって急な雨がもたらされるのです。これこそが問題で、雨を感知してドームを閉じる対策が必要となりました。

そこで、ドームの自動化を手がけた会社から、雨検出器を購入しました。検出器は、直接屋根のコントローラに接続しました。雨が降ると、まずビービーと警報が鳴り、それからドームがもとの位置に戻り、スリットがゆっくりと閉じます。

私はメーカーに警報を全く鳴らさずに閉じる方法がないかをたずねました。すると、警報を鳴らすのは、人がドーム内部のはしごにのっていた場合、いきなり閉じれば、はしごから落下する危険があるためと説明を受けました。

確かに、対策としては良いのですが、高価な機材を守るという観点からは、十分ではありません。私は、規模の大きな天文台が一体どんなセンサーを使って高価な機材を守っているのか、インターネットで調べ始めました。さらに、どんなセンサーが手に入るのか、またその説明書も併せて調べてみました。結局当時は、1つか2つくらいしか見つかりませんでした。

私はある会社のサーモパイルを実験用に購入しました。しかし、壊れ易く屋外の環境に持ちこたえられないことがわかりました。また、雨や雲を知らせて、さらにスリットを閉じるよう書かれたソフトウェアのインターフェースも必要でした。

私たちはこのような作業を数ヶ月間行っていましたが、ちょうどその時、ある会社がそのようなシステムとソフトを製造し始めていました。始めは自分たちの手で作り出そうとしましたが、やはりテスト済みのものを購入するほうが早いと判断し購入を決めました。

WeatherWatcher(ウェザー・ウォッチャー)

同じ頃、米・カリフォルニア大学バークレー校と "Hands-On Universe "()と共有する、ルーフ式の小さな天文台を建てました。今まで以上に、システムが必要となり、米・カリフォルニア大学バークレー校をスポンサーに持つプログラマーの助けを得て、WeatherWatcherのプログラムに取り掛かることになりました(個人的にソフトウェアを書くスキルのない私は、この分野のことは、いつも知識のある方に依頼しています)。

その後、数週間のうちに最初のWeatherWatcherができあがり、テストの準備が整いました。これで、雲検出器からの情報だけでなく、関連した気象情報も取り入れられるようになりました。

WeatherWatcherの画面表示

右の画像にあるように、温度、湿度、風速、上空の温度、雨、シーイングの状態をパラメータとすることで、質の高い天気の検出システムが構成されています。

2004年にできたソフトウェアは、ネットワークコンピュータにインストールされ、同じ天気検出の設備を使い、2つの天文台で稼動できるようになりました。

WeatherWatcherの最初のバージョンが開発された後、プロジェクトの全般を私の仲間の一人に託しました。彼は、WeatherWatcherを更に開発し、アップデートを続けたいと希望していたからです。

WeatherWatcher ACPの画面表示

ずぐに、WeatherWatcherの最初のバージョンに続いて、WeatherWatcher ACPが登場しました。写真は、その新しいバージョンで、こちらにはいくつかのオプションが追加されています。

WeatherWatcher ACPのコピーは、世界中の人々に購入いただきました。とてもフレキシブルなので、ユーザーごとに地域にあったパラメータをセットすることができます。

例えば、ハワイの場合、私は湿度を最大83%とします。これ以上だと、シーイングが悪く、撮像には向かないからです。また、Ironwood Remote Observatoryでは、風速を最大15mphにセットしています。ただし、上空の温度は、(上空の黒体温度とセンサーが感知する周囲の温度とを比較するため)各地域の条件に合わせてセットする必要があります。

現在私が使っている市販の雲検出器は、2つのバージョンがありますが、目下、価格的に購入しやすい雲と雨両方の検出器を探しているところです。

WeatherWatcher ACPは、多くの気象台との互換性を持っています。気象台には、"Virtual Weather Station"と呼ばれるプログラムとの互換性が必要とされるだけで、Virtual Weather Stationは、米・Ambient Weather社のオンラインショップで購入することができます。

Virtual Weather Stationのインターネットバージョンでは、気象に関するウェブページを通して、各人が自分の天文台周辺の天気を遠隔地からチェックすることができます。

同プログラムの詳細は、以下のページを参照してください。CCDASTRO, Inc: WeatherWatcher Server for ACP

新しい気象タワーの画像

新しい望遠鏡を設置した天文台の画像

M64の画像

なお右の写真は、最近撮った新しい気象タワーの写真です。タワーには、新しい気象台、雲の検出器、ポールにはIPカメラが設置されています。気象センサーはすべて太陽電池式で、ワイヤレスになっています。

また、2枚目の写真は、新しい望遠鏡を設置した天文台です。M64の画像は、この新しい設備で得られたものです、視野は63.8×43.0分角、2184×1472ピクセル、1.75秒角/ピクセルです。もっと、大きな対象をとらえるべきだったかもしれませんが、星がどのように見えるのかを知るために撮影したものなので、ご了解ください。

※Hands-On Universe(HOU)(手のひらに宇宙を):米・カリフォルニア大学バークレー校のローレンス科学館が開始した高校生のための科学教育プログラム。高校生が世界中のリモート天文台に依頼して、インターネット上から本格的な天体観測用の望遠鏡を使った観測やデータの解析まで行うことができる。


※Ironwood Observatory(Ken Archer氏)による、リモート天文台の建設やそのほかのサービスに関する問い合わせは、「お問い合わせフォーム」から、(営業部宛まで)ご連絡ください。

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