Ironwood Remote Observatory Hawaii
第6回 「まだまだあります、天文台建設上の問題」

Writer: Ken Archer氏

《Ken Archerプロフィール》

米国・ハワイ州オアフ島在住。アロハ航空の機長を務めるかたわら、自宅に天文台を建設して以来、その性能向上に力を注いできた。リタイヤ後の今は、天文台の自動制御に関連したビジネスを展開している。ホームページ「Ironwood Observatory」を開設中。


前回は、ハワイの地形とその周りを囲んでいる海とが作用して、独特の天気現象が起きることについてお話しました。また、そのような独特の天気にも対応するシステムを構築したことについてもお話しました。

さて、今回は、ハワイで私たちが遭遇する別の問題点についてお話します。私は、リモート望遠鏡を世界の学校に提供したいと願っています。そのためには、より標高が高く、年間を通じて条件の良い夜空で観測できる場所が他に必要なのです。

天文台のプロジェクトを始めたとき、私は天文台を建設する場所として、公害のない、公共の電気の通っていない、ひっそりとした場所で、且つ基礎工事の必要のない場所であるべきだと主張しました。

私たちは最初から、土地を荒らしたり、いかなる公害もそれを引き起こせば、土地を借りることはできないとわかっています。実は、ハワイの人々は、土地の美しさに敏感で、未来子々孫々にわたって今の環境を残しておきたいと考えています。これはとてもよいことです。しかし、これもまた、最高の場所に天文台を建設する上では厄介になるわけです。

M16のLRGB合成画像

現在の場所について私たちは、これまでの2年間満足してきました。ただし、私たちの計画では、今ある天文台をデモンストレーション用に残し、今後新たなシステムを導入する場合の試験用にも使用するつもりです。また、同じ場所には将来複数の天文台を建設できるようなスペースも確保してあります。

現在の天文台が位置する場所は、セキュリティー面も最高レベルで、夜間に危害を加えられる心配もありません。また、島の中では、もっとも乾燥した場所の1つです。しかし、残念ながら、こちらが希望するほど、澄んだ夜空の日は多くはありません。

ところで最適な場所を見つける上で、直面する問題とは何でしょうか。もちろん、より標高が高くなれば、シーイングも良くなります。ハワイでは、貿易風の雲の高度は、だいたい2133メートルです。オアフ島でもっとも高い山はカーラ山で、高さは1227メートル、ワイアナエ山脈の中ではもっとも高い場所です。そのため、カーラ山は、ほとんどいつも雲の中です。

オアフ島を見てみると、2つの山脈が南北に走っています。最初に雲と貿易風がぶつかるのは、島の東側にあるコオラウ山脈です。次に西側に位置するワイアナエ山脈です

オアフ島では、ワイアナエの沿岸にそったエリアがもっとも乾燥します。しかし、ワイアナエの沿岸部は人口がひじょうに密集しており、天文台を建設できるような安全な場所はほどんどありません。数年間探し続けているのですが、いまだに適した場所は見つかっていません。

M51のLRGB合成画像

建設にもっとも適しているのは、ハワイ州最大の島、ハワイ島です。マウナロアの頂上は4169メートル、マウナケアが4205メートルあり、圧倒的な夜空を見ることができます。

私は、2438メートルから3048メートルの高さの場所を希望しています。ほとんど雲の上で、空気の濃さも作業するにはじゅうぶんです。3048メートルよりも標高が高くなると、空気が薄くなり負担が増え、体や頭の働きに支障が出てくるのです。

私たちは、ハワイ州に対して、20台の天文台を建設できる土地の提供を求めて、働きかけてきました。その働きかけは、現在まだ成功に至っていませんが、ゴールを目ざして説得を続けるのみです。お役所とのやりとりは、単純に時間と努力の問題だと思いますので・・・。

そして、いずれ州政府からゴーサインが出た時点で、天文台1台分の区画に、どれくらいのコストがかかるかわかると思います。天文台自体は小さいので、1月あたりの賃料もかなり安く上がるのではないかと期待しています。

多くの場合、新しいアイデアというのは、相手に理解されるまでに時間がかかります。私はこれまで多くの人々に天文台のコンセプトを説明してきましたが、たいていの場合ぽかんとした反応が返ってきます。経験も知識もないことについて、いきなり何かを話せるわけもないので、仕方がないのですが・・・。

しかし最近、幸運なことに地元のニュース番組から取材を受ける機会がありました。レポーターとカメラマンは、通常私が口で説明すると2時間はかかる内容を2分ほどで紹介してくれました(Archer氏が取材を受けたハワイのローカル局 KHNLニュース: Hidden telescope gives stargazers a glimpse of outer space )。

私は常に、「Be care for what you wish for, you just may get it!」(アストロアーツ訳:求めるものには注意しなさい。本当に手に入るかもしれないのだから)ということわざを心に留めています。

今後私たちが、新たなユーザーのために天文台を今の場所から離れた所へ移動できるようにするには、新たな障害があります。天文台を別の島へ移し、目的地まで移動させなければなりません。幸い、この問題についてはある程度の経験がありますので、最大の難関は移動が長いという点に終始しそうです。

天文台が目的地に到着すれば、あとは安全に天文台を設置して、全てのシステムのセットアップやキャリブレーションを行います。

地面の状態が異なっても、私たちはこれまでに脚のデザインに多くの時間を費やしてきましたので、対応策はたくさんあります。また、設置する設備は、最大風速50m以上に耐え得るものでなくてはなりません。天文台を設置する地表の特徴をまず知った上で、もっとも適したデザインのものを選びます。

前回、新しい望遠鏡を天文台に設置したことについてお話しました。おかげで、視野が広くなり、画像の解像度も高くなりました。もともと私たちが使っていたのは、SBIGのCCDカメラ ST-10XEを2×2のビニングモード、2184×1472ピクセルで使用していました。もっとも驚き動揺したのは、私たちのRAW画像が6メガバイトを越えていて、画像をキャリブレーションするACP天文台制御プログラムを使うと、12メガバイトのIEE FITSファイルで終了してしまうことでした。

なぜ、これが問題なのかというと、電気の通っていない場所で、バッテリーを使ってインターネットに接続する場合、一般の家庭で使われているADSLや光ケーブルと比べて、速度が相当遅くなるからです。

そして、2つの問題点が明らかになりました。1つは、妥当な時間内にファイルを送信するための回線容量が足りないこと。もう1つは、天文台との通信を維持しておくためのバックアップ対策を用意していなかったことです。これらの問題を解決する方法を見つけなければなりませんでした。

そこで、すべてのバッテリー販売会社に行きました。すると、速度上の問題はないことがわかりました。さらに、いろいろ調べてみるとモデムの契約プランが月額限度が5ギガバイトであり、それを超えた場合には追加料金をとらられることにも気がつきました。

ほとんどのモデムは、かなりの電気を食います。これは、太陽電池式の天文台にとっては好ましいことではありません。実際、いくつかのモデムは触るとまるで白熱電球のように熱くなります。また、モデルによっては、信号の強さも十分でないために遠隔地からは送受信もできないものもあります。

さて、この問題の解決方法を手短に説明すると、次のようになります。

結局、私たちは、月額料金がそれほど高くなく、契約書不要で、その上、送信データ容量が無制限というモデムプランを選んだのです。これで、大手企業が提示する同様のサービスに比べて半分のコストで済み、ファイルの送受信速度は以前より速くなりました。また、モデムは触っても冷たいままです。さらに、多くの圧縮モードと後処理スキームを使って、私たちは転送にかかっていた時間を数時間から、数分にすることができたのです。


※Ironwood Observatory(Ken Archer氏)による、リモート天文台の建設やそのほかのサービスに関する問い合わせは、「お問い合わせフォーム」から、(営業部宛まで)ご連絡ください。

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