すばる望遠鏡、誕生10億年後の宇宙に炭素を発見
【2011年10月7日 すばる望遠鏡】
日本とイタリアの共同研究チームは、すばる望遠鏡を用いた観測により125億光年かなたの電波銀河の光から炭素輝線を検出することに世界で初めて成功した。生命体の基本構成元素である炭素が宇宙で初めて生成されたのはいつなのか、我々の究極のルーツをさらにさかのぼる手がかりとなる。
私たちが住んでいる宇宙は、今からおよそ137億年前にビッグバンという大爆発によって誕生したと考えられている。誕生直後の宇宙にはビッグバンで作られる水素とヘリウムしか存在せず、その後無数に生まれ死んでゆく恒星によって、現在私たちのまわりに存在するさまざまな元素が作られてきた。
太陽の内部では水素をヘリウムに変換する核融合が起こっており、その時に発生するエネルギーが熱や光として放射されている。やがて水素がなくなれば今度はヘリウムの核融合反応によって炭素や酸素が生成される。また、太陽よりはるかに重い星の最期に起こる超新星爆発では、鉄やニッケルなどのさらに重い元素が生成される。
宇宙における元素の起源と歴史を知るために、遠方の宇宙、つまりその光がはるか昔に天体を出発した時点での元素量を調べる研究が行われており、現在の宇宙に見られるような元素が115億年前には既に生成されていたことがこれまでに示されていた。
今回、愛媛大学の松岡健太特別研究員らのチームは、すばる望遠鏡の「微光天体分光撮像装置(FOCAS)」での分光観測(注1)により、125億光年かなたというこれまで水素とヘリウム以外の元素が検出されたことのない領域の電波銀河(注2)「TN J0924-2201」の元素量を調べることに成功した。125億年前というと宇宙誕生から約10億年後ということになるが、当時の電波銀河でも既に相当量の炭素が存在していたことが判明した。
さらに、この観測とシミュレーションの結果を比較して当時の電波銀河の炭素存在量を推定したところ、銀河進化の中でゆっくりと増加してきたと考えられている元素でさえ、その大部分が宇宙誕生後10億年ごろには既に生成されていたことがわかった。これは、現在電波銀河に見られるような元素のほとんど全てが宇宙誕生後10億年以内という極めて短い期間に爆発的に生成されたことを示唆している。
松岡さんは、「私たちはどこからきて、どこへいくのか。人類のルーツにも繋がる元素生成の歴史を解き明かすために、今後もさらなる調査を進めて行きたい」と意気込んでいる。また、同研究チームの長尾透准教授(京都大学)は、「このような研究に有用な遠方宇宙における巨大ブラックホール天体を更に調査することが、今後ますます重要になるでしょう」と今後の展開について期待を寄せている。
注1:「分光観測」 天体からの光を波長別にわけてスペクトルを求める観測を分光観測という。元素から放射される特定の波長の光(輝線)を捉えることで、その天体の元素量を測定できる。
注2:「電波銀河」 巨大ブラックホールの重力エネルギーにより電波や可視光で極めて明るく輝く銀河。