タイタンの砂丘が見せる2つの表情

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【2012年1月24日 NASA

探査機「カッシーニ」のレーダーによって、土星の衛星タイタンに存在する砂丘は地域によって違いが見られることがわかった。この「表情」の違いを調べることで、タイタンの気候や地質学的な歴史をひも解くことができるかもしれない。


タイタンの砂丘と地球の砂丘

探査機「カッシーニ」が撮影したタイタンの砂丘(左列)と、地球の各地に見られる砂丘(右列)。上段の砂丘(タイタンは黒い筋状のもの、地球は白い筋状のもの)の方が幅が太く、下段の方が細いのがわかる。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech, and NASA/GSFC/METI/ERSDAC/JAROS and U.S./Japan ASTER Science Team)

砂丘はタイタンの非常に広い領域を覆っている地形で、割合ではおよそ13%、面積にして1000万km2もの領域を占めている。地球でも似たような地形は発見されているが、その規模が違う。タイタンの砂丘は、平均して幅1〜2km、長さ数百km、高さ100mもの大きさを誇っている。

そんなタイタンの砂丘だが、主に高度と緯度によって砂丘の大きさが左右されることがわかった。その例を対照的な2つの地域で見てみよう。

ひとつはベレット地域内の低緯度で低地にある砂丘だ。この一帯の砂丘(画像左上の黒い筋)は幅が広く、また砂の量が多いとみられており、地球でいえば堆積物が多く存在しているオマーンの砂丘(画像右上)とよく似ている。

もうひとつはフェンサル地域内の高緯度で高地にある砂丘だ。画像左下(黒い筋)に見られるように、こちらは砂丘の間が広く砂丘同士の間にある砂の量が少ないため、ベレット地域のものと比べると白っぽく見えている。地球でいえば、同じように砂の少ないカラハリにある砂丘(画像右下)とよく似ている。

これらの違いは何故見られるのか。ひとつには、高度が低いところほど砂丘を作る「砂」(注1)が多く、高度が高いところでは少ないためと考えられる。また砂丘は南北緯30度で挟まれる赤道域で見られるが、南半球よりも北半球のほうが砂の量が少ないことがわかっており、タイタンの季節変化がその鍵を握っていると考えられる。

タイタンは土星と共に、太陽の周りをおよそ30年かけて楕円軌道で公転している。タイタンも少し地軸が傾いているため季節変化があり、雨季にあたる夏は北半球の方が南半球より長くなることが知られている(注2)。つまりタイタンは1年を通して北半球のほうが「湿っぽい」ため、「砂」が風によって移動しにくく、結果として砂丘を作るような「砂」が外からなかなか運ばれてこないことが原因として考えられている。

湖の数にもこのような南北の非対称性が現れており(参照:2012/1/10「タイタンのメタン湖の謎、シミュレーションで解明」)、季節の長さの違いによるという説を支持している。

砂丘は地質と気候が相互に作用することによって作られるため、砂丘の形状や大きさ、分布を調べることはタイタンの大気‐地表面でどのような作用が働いているかを調べる上で非常に重要だ。特にタイタンにおける大きな謎である炭化水素の循環を解明する手がかりの1つになると考えられる。

注1:「タイタンの砂」 タイタンの砂丘を構成する砂は地球のようにケイ酸塩からなるのではなく、大気成分から作られた炭化水素の粒だと考えられている。その大きさは0.1cm程度と考えられるが、どのようにしてできたのかは不明である。

注2:「夏の長さ」 土星の公転軌道は楕円であり、太陽から遠いところほど公転速度が遅くなる(ケプラーの第2法則:面積速度一定の法則)。土星が太陽から遠いところでタイタンの北半球が夏になるので、速度が遅いために長期間を過ごすことになり、南半球の夏の時期より長くなる。

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