すばる望遠鏡の新型超広視野カメラHSCが試験観測を開始

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2012年9月13日 すばる望遠鏡9月18日更新

米ハワイにあるすばる望遠鏡に新型の超広視野カメラHSC(Hyper Suprime-Cam)が搭載され、先月末に試験観測を開始した。来年開始予定の本格観測ではダークマター分布の直接探索などが行われることになっている。


HSCの全体像の画像

主要な部分の組み上げが完了したHSCの全体像。クリックで拡大(提供:国立天文台/HSCプロジェクト。以下同)

CCDと補正光学系の画像

(左)カメラ部の内部・焦点面に並ぶCCD(右)下から見上げた補正光学系。クリックで拡大

試験観測中の観測室と、ベガをとらえた初観測のモニター画面

(左)試験観測中の観測室の様子。中央が開発リーダーの宮崎さん(右)HSCの初観測でとらえられたベガの取得データ確認画面。クリックで拡大

国立天文台がカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)などと共同で開発を進めてきた新型の超広視野カメラ「HSC」(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)がすばる望遠鏡に搭載された。ハワイ現地時間8月28日夜から性能試験観測を開始し、恒星の光が正しくHSCに導かれてデータが取得できていることが確認された。HSCにとって、またすばる望遠鏡にとっての大きな一歩だ。

HSCは、高さが3m、重さが3tで、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラだ。これまですばる望遠鏡に搭載されていた「Suprime-Cam(シュプリーム・カム)」と比べて7倍も視野が広がり、観測効率が大幅に高まる。

国立天文台の宮崎聡さんを中心とするチームでは2002年から10年間にわたってHSCの検討・開発を進め、2005年には台湾・中央研究院が、2007年には米・プリンストン大学、IPMUなどがプロジェクトに参加した。また2010年には、巨大なHSCを搭載できるよう、すばる望遠鏡の大掛かりな改修が行われた。

HSCを構成しているのは、大きく分けて、カメラ部、補正光学系(レンズ鏡筒)、主焦点ユニットの3つの要素で、いずれも日本の最新技術の粋を集めた観測装置である。

カメラ部は焦点面に116個のCCD素子を配置しており、いわば計9億7000万画素を持つ巨大なデジタルカメラである。このCCD素子は国立天文台と浜松ホトニクス株式会社によって共同開発されたもので、幅広い波長域にわたって非常に高い感度をもつ点が特徴となっている。

また、光学収差や大気分散を補正するための補正光学系はキヤノン株式会社によって製作された。結像性能はおよそ0.2秒角(2万分の1度角)と、これほどの広視野の光学系では世界最高性能が達成されている。

さらに、カメラ部や補正光学系などを保持し望遠鏡に取り付けるための機械部品である主焦点ユニットは、三菱電機株式会社が担当。主焦点ユニットの姿勢制御には、数トンの荷重を1〜2μmの位置精度で制御できるように特別に開発された6本のジャッキが備えられている。

試験観測で全性能が予定通り達成されているかを確認した後、本格的な観測は2013年から始まる。すばる望遠鏡のシャープな星像とHSCの広視野を活かして、重力レンズ効果を用いたダークマター分布の直接探査などを目的とした観測が行われることになっている。


プラネタリウムアプリ「iステラ」が「すばる」の現場でも活躍(9月18日追記

「iステラ」でベガの座標を確認する様子

「iステラ」でベガの座標を確認する様子(撮影:林左絵子さん)

HSCの試験観測に、アストロアーツのiPhone/iPod touchアプリ「iステラ」が一役買ったという報告をいただいた。最初の対象となったこと座のベガを望遠鏡でとらえるためにiステラで座標を確かめる観測室での様子を紹介しよう。

試験観測では、ベガの座標を設定し望遠鏡を向けても初めは何も写らなかった。重大な障害の発生が疑われたものの、機械系の設定ファイルを入れ替えて再度望遠鏡を向けてみると、画面の左下から明るい星がスッと入って来たという。開発チームリーダーの宮崎さんは、「10年前に数名のグループで検討を始め、その後多くの人の協力を得て、ようやくここまで来ました」とその時の感慨を語っている。

(画像と情報提供に関して、HSC開発・運用チームの内海洋輔さんにご協力いただきました。)

〈参照〉

〈関連リンク〉

〈関連ニュース〉