活動的小惑星ファエトンの素顔
【2018年7月2日 国立天文台】
地球近傍小惑星の一つ「ファエトン((3200) Phaethon、フェートンとも)」は、彗星に似た特異な軌道を持つ直径6kmほどの小惑星である。ふたご座流星群のもととなる塵を供給した天体と推定されていることや、太陽に近づく時期には少量の物質を放出していることなどから、ファエトンは彗星に近い性質を持つ「活動的小惑星」として知られている。このような彗星と小惑星の両方の性質を持つ天体の表面状態は非常に興味深く、また謎が多い。
太陽系天体の表面について知るには、偏光観測が有効な手段だ。天体表面で反射した光は、光が伝わる方向と垂直な電場の変動が特定の方向で強く、別の方向では弱いという偏光を起こすことがある。その偏光の度合いを観測すると、天体表面の情報が得られる。
国立天文台の伊藤孝士さんたちの国際研究チームは2016年秋に、北海道大学のピリカ望遠鏡を用いてファエトンの偏光を観測した。その結果、ファエトンが反射した光の直線偏光度について、50%以上という非常に大きな値を示すことが明らかになった。この値はこれまでに知られている太陽系小天体のなかで最大で、従来考えられてきたファエトンの性質(反射率の値)からは予想外の結果である。
ファエトンの偏光度が大きいという性質は、天体表面にある粒の直径が大きいことを示唆している。研究チームでは、室内での実験と観測値から、ファエトンの表面物質の粒の直径が360μm以上と推定している。これは月表面から持ち帰られた粒の直径(50μm以下)と比べて非常に大きいものだ。太陽の近くを定期的に通過するファエトンが、太陽からの熱や光の影響を強く受けた結果かもしれないと考えられている。
偏光度が大きい理由としては、表面を覆う物質の空隙率が大きいという可能性も、数値シミュレーションの結果から示されている。不規則な形状を持つ粒子がファエトンの表面を覆っているために空隙率が増し、結果的に大きな偏光度になっているのかもしれない。
さらに、大きい偏光度が見られる原因として、ファエトンの表面物質の反射率がこれまでの観測研究による予想以上に低いという可能性も考えられている。
ファエトンは、宇宙航空研究開発機構と千葉工業大学が共同開発中の深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」の探査対象天体である。将来の探査により、ファエトンの理解が深まることが期待される。
〈参照〉
- 国立天文台:偏光観測が明らかにした近地球小惑星フェートンの素顔
- Nature Communications:Extremely strong polarization of an active asteroid (3200) Phaethon 論文
〈関連リンク〉
- DESTINY+
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:小惑星ファエトン(2017年)
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