リュウグウの6割は有機物かもしれない
【2020年6月25日 岡山大学】
小惑星探査機「はやぶさ2」が探査を行ったリュウグウは「C型小惑星」に分類されていて、炭素質コンドライトと呼ばれる隕石にスペクトルが似ている。炭素質コンドライトは有機物や水を数%含む始原的な隕石で、リュウグウもこのタイプの隕石と同じような組成であると考えられてきた。
一方で、リュウグウの表面は強い宇宙風化を受けているらしいことが「はやぶさ2」の観測データからわかっている。たとえば、2019年2月22日に「はやぶさ2」がリュウグウの表面に初のタッチダウンを行った際の映像には、着地の瞬間におびただしい量の岩の破片や砂が巻き上げられる様子がとらえられているが、ここに写っている岩石の破片の中には、平べったい板状の石で片面が白っぽく、もう片面が黒っぽいものが見られる。
岡山大学のChristian Potiszilさん、中村栄三さんたちの研究チームは、このように面によって大きく色が異なる岩石片は、宇宙風化によって表面が変色したものではないかと考えた。
一般的に、普通の岩石の主成分であるケイ酸塩が多い岩石では、宇宙風化を受けると鉄の微粒子が表面で生成されるため、反射率が下がって黒っぽくなる。一方、有機物を多く含む岩石では、宇宙風化によって有機分子が黒鉛に変化するため、反射率が高くなって白っぽい色に変わる。そのため、「はやぶさ2」の映像で見られる岩石片は、黒っぽい面がリュウグウの内部側、白っぽい面がリュウグウの表面側を向いていたのではないかと推測したのだ。
そこでPotiszilさんたちは、過去に行われた様々な隕石の宇宙風化実験のデータと、「はやぶさ2」で得られているリュウグウの反射率の観測データから、リュウグウの表面物質に含まれる有機物の量を理論的に計算してみた。その結果、リュウグウ表面の反射率を再現するためには、表面物質に約60%もの有機物が含まれている必要があるという結論になった。これは炭素質コンドライトの有機物の含有率(数%程度)よりもはるかに高い値だ。
この結果から研究チームでは、リュウグウはもともと氷と有機物からなる彗星の核だったのかもしれないと考えている。彗星核が周期的に太陽に接近することで氷が失われ、有機物の濃集や重合、分解などの化学反応が進んだことで、有機物の割合が非常に高くなったのではないかというのだ。
この枯渇した彗星核が軌道上の岩石質の物質を取り込んだと考えれば、現在のリュウグウががれきの集積したスカスカの天体(ラブルパイル天体)であることも説明できる。さらに、取り込まれた岩石物質は相対的に密度が高く重いため、時間とともにリュウグウの中心に沈み込んでいくが、表面からは氷が蒸発して失われるため、リュウグウのサイズは小さくなる。この効果でリュウグウは次第に自転が速くなり、現在のように赤道部分が張り出した「そろばん玉」型の形状になったのではないかとも考えられる。
今年の年末に「はやぶさ2」が地球に帰還し、リュウグウのサンプルを持ち帰ることができれば、この推論が正しいかどうかをサンプルの直接分析で確かめることができる。中村さんは、「この研究の発端は、YouTubeで『はやぶさ2』のタッチダウンの動画を何度も見ている最中の思いつきです。実際に回収試料を分析することによって、自分が立てた仮説を自分たちの手で検証できることが科学者としての最高の喜びです」とコメントしている。
〈参照〉
- 岡山大学:小惑星「リュウグウ」が大量の有機物からなる可能性を示唆 「はやぶさ2」タッチダウン時に巻き上がった破片の色から推定
- Astrobiology:The Albedo of Ryugu: Evidence for a High Organic Abundance, as Inferred from the Hayabusa2 Touchdown Maneuver 論文
〈関連リンク〉
- 岡山大学惑星物質研究所
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
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