「あかり」、超新星残骸から一酸化炭素を検出
【2012年2月9日 JAXA】
赤外線天文衛星「あかり」の観測から、超新星残骸カシオペヤ座Aに多量の一酸化炭素が見つかった。分子が壊れやすい高温ガス中に一酸化炭素が検出されるのは予想外で、宇宙初期の塵のでき方や宇宙空間における物質の進化の研究に対して大きなインパクトを与えるものだ。
カシオペヤ座の方向約11000光年先にあるカシオペヤ座Aは、銀河系でもっとも最近(約330年前に)起こった超新星爆発の残骸と考えられており、天文学でしばしば観測研究の対象となる天体だ。たとえばX線観測では、3000万度という非常に温度の高いガスに満たされていることが知られている。また、NASAの衛星「スピッツァー」による赤外線画像には、波長4.5μmで予想外に明るく輝く場所が見つかっていた。
アメリカと日本の共同研究グループは、この明るい場所が一酸化炭素分子によるものではないかと考え、日本の衛星「あかり」(注)でこの場所の赤外線スペクトルを得た(画像)。スペクトルには一酸化炭素の特徴を示す2つの山がはっきりと現れ、ここに大量の一酸化炭素ガスがあることが初めて判明した。
一酸化炭素(CO)は炭素(C)と酸素(O)からなる、宇宙には普遍的に存在する分子だが、超新星残骸のような高温のガス中では分子は簡単に壊れてしまうので、今回の検出は想定外の発見だった。超新星爆発の時にできてそのまま残っているのか、それとも最近作られたのかは不明だが、若い超新星残骸に一酸化炭素がどうして存在していられるのか、大きな謎だ。
この発見の意味
炭素と酸素は、水素やヘリウムについで宇宙に多く存在する元素で、宇宙空間に浮遊する固体の微粒子(塵)の主要な成分となっている。だが、超新星残骸に含まれる炭素原子と酸素原子の多くが一酸化炭素になっているとすると、他の化合物ができにくくなってしまう。つまり、一酸化炭素が多量に存在するということは、それだけ固体の微粒子が作られにくいということを意味する。
固体の微粒子は、光を熱に変えて星間ガスを温めたり、逆に赤外線を放って冷やしたりするなど、宇宙空間の熱環境を支配する主要な要素だ。また、新しい分子の生成など星間空間の化学過程にも影響を与えており、宇宙が今の姿になるための物質進化に欠かせない重要な役割を果たしている。
超新星爆発は宇宙の初期における固体の微粒子の主要な供給源で、その後の宇宙の進化を決める重要な現象と考えられていた。だが、今回の一酸化炭素分子の検出はこの仮説に大きな疑問を投げかける結果であり、宇宙空間における物質の進化の研究に対して大きなインパクトを与えるものとなる。
注:赤外線天文衛星「あかり」 2006年に打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星。2011年11月に運用を終了したが、それまでに得られた膨大な観測データの解析が今も続けられている。