アイソン彗星、予想より暗めながら順調に増光中
【2013年10月16日 「星ナビ」11月号】
アイソン彗星の太陽最接近が1か月半後に迫ってきた。世間の注目も次第に高まってきているが、一方で彗星は予想より暗く、期待と不安が入り混じっていることだろう。10月から11月末までの明るさと見え方を解説した「星ナビ」11月号記事を紹介する。
(※)10月4日発売「星ナビ」2013年11月号の記事(執筆:吉田誠一さん)をWeb用に再構成したものです。
増光のペースは鈍足? マイナス13等級は厳しいか
いったん太陽の向こう側にまわって観測できなくなった後、8月中旬に13等台後半から14等の明るさで明け方の空に現れたアイソン彗星(C/2012 S1)は、その後しだいに高く昇り、たくさんの観測が報告されている。徐々に観測条件も良くなり、すでに眼視でも見えるようになってきた。明るさも、9月上旬には12〜13等、9月中旬には11〜12等と順調に増光してきている。CCD観測でも日に日にりっぱな姿に成長していくようすがとらえられている。
だがこの明るさは、発見当初の予想と比べると暗い。当初の予想では9月上旬には11等、中旬には10等になっているはずであった。しかし、光度グラフを見ればわかるように、実際の明るさはそれを1〜2等ほど下回っている。眼視観測ではCCD観測と比べて明るく測定されることが多いが、もっとも明るく報告されたものでも当初の期待には届いていない。どうやら、増光のペースが鈍い彗星であることがはっきりしてきた。
アイソン彗星は、オールトの雲から初めて太陽に近づいてきた彗星である。こうした新参の彗星は増光のペースが遅く、遠方で発見された時には期待されても、実際にはそれほど明るくならないことも多い。アイソン彗星にもこの傾向が現れている。実際9月中旬には、太陽から2au(約3億km)の距離まで近づいているが、いまだに大きく広がるコマは見えず、相変わらず小さな頭部から短い尾を伸ばした姿のままだ。
ちなみに、アイソン彗星の増光と対照的なのが、今年の春に明るく見えたレモン彗星(C/2012 F6)だ。1万年ほどの周期で過去に何度も太陽に接近しているレモン彗星は、太陽から2auの距離に近づく前から、すでに大きなガスのコマを見せており、太陽に近づくにつれてさらに明るく大きく成長していった。アイソン彗星にはこのような急成長は期待しづらい。
発見当初は、太陽に最接近する頃には最大でマイナス13等級になると期待されていたアイソン彗星だが、もし増光が鈍いままであれば、当初の予想を大きく下回り、最大でもマイナス6等級にしかならない可能性もある。実際には、最大光度になる瞬間は太陽に近すぎて観測できないから、地上から見られる時期としては、3等級どまりかもしれない。
サングレーザーとしての近日点通過後の可能性
さらに不安なのは太陽への接近だ。アイソン彗星は発見当初の明るさから、絶対光度が5.5等級の大型の彗星と思われていた。だが最近の明るさからは、絶対光度は7〜8等級となる。太陽に近づく彗星が生き残るかどうかを判定する「ボートルの限界」によれば、太陽をかすめる彗星は絶対光度が7等級より暗ければ生き残れない。つまり、アイソン彗星が消滅してしまうという最悪の可能性もゼロではない。
だが、アイソン彗星が大彗星となるかどうかは、単純に増光のペースや「ボートルの限界」で予想することはできない。最盛期は太陽の表面をかすめた後の12月だが、この時期の明るさや尾の見え方は、実際に近日点を通過するまでわからない。彗星が太陽の表面をかすめた直後に、どのくらい塵を放出するかによって決まるためだ。近づくまでの明るさや、通過した後に本体が生き残るかどうかはそれほど重要ではない。実際、2011年のラヴジョイ彗星(C/2011 W3)は彗星核が消滅したが、大量に放出された塵が長い尾を作り大彗星となった。
アイソン彗星は、おそらく11月末の近日点通過までは、当初の予想を下回りつつも急速に明るくなっていくだろう。そして無事に近日点通過を迎えることさえできれば、12月には明け方の空ですばらしい姿を見せてくれることだろう。
10月26日、しし座のトリオ銀河に接近
レグルスや火星を抜き去ったアイソン彗星は、10月24日から27日にかけて、しし座の銀河群M95、M96、M105の約3°南を通過する。もっとも接近するのは10月26日で、3つの銀河の中心に位置するM96との間隔は2°程。双眼鏡で見るのは困難だが、ぜひ望遠レンズでの撮影に挑戦してみよう。
10月30日、月齢24.8の月と並ぶ
10月30日、薄明の始まった東の空には、月齢24.8の細い月と赤く輝く火星が並んでいる。そこにアイソン彗星も仲間入りする。月と火星の間隔は6.4°で、7倍双眼鏡(実視野7°)で見えたとしても、月とアイソン彗星を一度に見ることはできないが、アイソン彗星と火星は間隔5.5°程なのでいっしょに見ることができそうだ。アイソン彗星の尾は火星に向かって伸びている。
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(※販売終了)