予想外、水が枯渇しているリュウグウ
【2018年8月7日 ファン!ファン!JAXA!/JAXA はやぶさ2プロジェクト】
「はやぶさ2」は6月27日にリュウグウに到着して以降、様々な科学観測を行っている。8月2日に開かれた記者説明会では、近赤外線分光計「NIRS3」とレーザー高度計「LIDAR」による観測成果などが発表された。
表面に水がほとんど存在しないリュウグウ
「はやぶさ2」に搭載されている近赤外線分光計「NIRS3」は、リュウグウの表面から放射される波長3μm付近の近赤外線を観測することで、表面に存在する物質についての情報を得られる装置だ。
NIRS3の運用チームでは、これまでに高度20kmの位置で自転4周分、高度12〜7kmの位置で自転2周分の表面観測を行って、リュウグウ表面の90%以上、計5万4000点の近赤外線反射スペクトルを得ている。
これまでのNIRS3の観測によると、リュウグウのスペクトルからは、水が存在する場合に波長3μm付近に現れる吸収帯が検出されていない。このことから、リュウグウの表面ではほぼ0%に近いほど水が枯渇しているらしいことが明らかとなった。
リュウグウは「C型小惑星」と呼ばれるグループに属する小惑星で、有機物や水を多く含む隕石「炭素質コンドライト」に似たスペクトルを持っている。C型小惑星のうち数十個では地上からの分光観測が行われており、そのうち約8割で水による吸収がスペクトル中に見られている。そのため、今回リュウグウの表面から水が検出されなかったのは予想外の結果だ。
ただし、過去に地球で採取された隕石では、水を含まないにもかかわらずリュウグウほど反射率が低いという標本は一つも見つかっていない。つまり、「はやぶさ2」のサンプルリターンでは、これまで人類が手にしたことのない種類の地球外物質のサンプルを得られることが期待される。
「はやぶさ2」でNIRS3を担当している会津大学の北里宏平さんは、リュウグウの表面で水が検出されなかった理由として「リュウグウの母天体でもともと水分を含む鉱物が生成されなかったか、あるいはリュウグウ表面が宇宙線で風化されたり、リュウグウが現在よりも太陽に近い軌道を公転していて高温に晒されたりしたことで、水が失われた可能性が考えられます」と述べている。
NIRS3ではまだ両極域が観測されておらず、ここに水が存在する可能性もある。また、宇宙風化や太陽熱の影響を受けるのはリュウグウ表面から数cmまでの深さにとどまるため、これよりも深い場所に水が存在していれば、「はやぶさ2」のインパクター(衝突機)でリュウグウ表面に人工クレーターを作るミッションで、地下深くにある物質が掘り起こされて水が観測される可能性もあるという。
クレーターの形状観測
「はやぶさ2」のレーザー高度計「LIDAR」によって、リュウグウ表面にある7個のクレーターの形状も詳しく観測されている。観測の結果、リュウグウのクレーターの「深さ÷直径」の比率は0.1~0.2程度で、過去に観測された小惑星や彗星のクレーターの値とほぼ同じであることがわかった。
また、一部のクレーターには比較的明瞭な「縁」があることも判明した。こうした縁は「はやぶさ」初号機が探査した小惑星「イトカワ」では見つかっていなかったため、イトカワとリュウグウとの間に何らかの違いがあることを示す証拠と考えられる。
8月以降のスケジュール
「はやぶさ2」の光学観測チームでは、9月以降に予定されているリュウグウへの着陸に向けて、着陸候補地の選定を進めている。現在のところ、岩塊が少ない十数か所の地点が候補に挙がっているという。8月1日から8月2日にかけては、実際の着陸と同じ方法で短時間で降下・再上昇を行う「中高度運用」を実施し、高度約5kmの地点に11時間ほど滞在した。
また8月6日からは、リュウグウの重力を測定するために高度約1kmまで降下する「重力計測降下運用」が実施され、「はやぶさ2」は7日午前8時10分ごろにリュウグウの高度851mまで接近した。
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