オーロラ爆発で低高度まで降り注ぐ電子
【2019年2月12日 国立極地研究所】
日本時間2017年7月1日7時20分、オーロラが急激に明るく光る「オーロラ爆発」現象が南極・昭和基地上空で約5分間にわたって発生した。このとき、同基地の大型大気レーダー「PANSYレーダー」によって、オーロラよりもはるかに低い高度65kmで大気の電離が確認された。また、ちょうどこの時に昭和基地から磁力線を辿った先の宇宙空間にジオスペース探査衛星「あらせ」が位置しており、ヴァン・アレン帯電子の急激な変化を観測していた。
国立極地研究所の片岡龍峰さんたちの研究グループは、通常は電離しない高度の大気がオーロラの光る高度と同様に電離していることに驚き、なぜこのような低高度の大気が電離したのかについて研究を行った。
宇宙空間から降ってきてオーロラを光らせる数keV(キロ電子ボルト)の電子は、高度100km付近の大気を電離させて止まるが、その際に発生するX線はオーロラよりも低高度の大気を電離させることが知られている。したがって、PANSYレーダーの観測結果の解釈として「オーロラ爆発の際にオーロラX線が大量に増えた結果だ」という可能性が考えられた。一方で「地球周辺の空間に存在するヴァン・アレン帯の電子が、オーロラ爆発と同時に大量に降ってきた結果だ」という可能性も考えられた。
ヴァン・アレン帯の電子は普段は宇宙空間に留まっているが、100~1000keVという高いエネルギーを持つため、仮に宇宙空間から大気に降ってくることがあれば高度65kmにまで侵入できる。研究チームはシミュレーションによって、オーロラX線とヴァン・アレン帯電子の両者が引き起こす電離度を見積もった。
その結果、高度65km付近ではオーロラX線による電離はわずかであり、電離のほとんどは「あらせ」で観測されたヴァン・アレン帯電子の大量降下のために起こったことが明らかになった。この結果は、オーロラカメラなど様々な観測装置のデータとも整合的であり、どのくらい高いエネルギーの電子が宇宙から大気へ降り込んでいたかを確実に推定できたと判断できる。
ヴァン・アレン帯電子の流入は、オーロラ爆発の数時間後に発生する脈動オーロラの時に起こることが知られていたが、今回の研究によりオーロラ爆発の直後にも起こりうることが明らかになった。ヴァン・アレン帯電子はオーロラとしては光らないため肉眼で確認することはできないが、オーロラ爆発と同時に大量に落ちてくることで、高度65kmという下部中間圏の大気もオーロラ高度と同等に電離し得ることが定量的に確認された。
今回の成果によりオーロラ爆発直後の数分間という短い時間に限ってヴァン・アレン帯電子が降ってくることが明らかになったものの、なぜその時間だけヴァン・アレン帯電子が大気まで落ちてくるための道が開くのかという具体的な仕組みは明らかになっていない。シミュレーションや「あらせ」などによる宇宙空間の直接観測データの詳細な分析といった、更なる研究が必要とされている。
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〈参照〉
- 国立極地研究所:オーロラが爆発するとヴァン・アレン帯の電子が上空65kmにまで侵入する
- Earth, Planets and Space:Transient ionization of the mesosphere during auroral breakup: Arase satellite and ground-based conjugate observations at Syowa Station 論文
〈関連リンク〉
- 国立極地研究所
- ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)
- PANSYレーダー
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:オーロラ
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