「はやぶさ2」クレーター実験成功、飛散物質の「カーテン」をとらえた
「はやぶさ2」は4月4日の13時17分(日本時間、地上で各事象を確認した時刻。探査機上の時刻は17分前となる。以下同)に高度20kmのホームポジションから降下を開始し、5日11時13分に高度500mで、リュウグウ表面に人工クレーターを作る衝突装置「SCI」を分離した。5日14時30分からの記者会見で、「はやぶさ2」から離れていくSCIを撮影した画像が公開された。
SCIの分離後、「はやぶさ2」は衝突時に飛散する物質を避けるため、40分かけて東へ約1km、さらにリュウグウの裏側方向へ約4.5km移動した。その途中、クレーター生成の様子を撮影するための分離カメラ「DCAM3」を11時32分に分離した。
SCIは分離から40分後の11時53分にタイマーで予定通り作動し、内蔵されている爆薬を起爆させて衝突体を撃ち出し、リュウグウ表面に衝突させた。DCAM3はSCI作動の5分前から15分後まで作動し、衝突体がリュウグウの表面にぶつかって物質が円錐状に飛び散る「イジェクタ・カーテン」ができる様子をはっきりととらえることに成功した。
運用チームでは、SCIが作動した11時53分から3分間にわたって「はやぶさ2」のテレメトリデータを監視して探査機の状態を確認したが、飛散物が当たって姿勢が乱れたり、探査機の機能に異常が生じたりした兆候はなく、SCIの作動後も「はやぶさ2」は健全だと判断している。
これらの結果から、「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーの津田雄一さんは記者会見で、「私たちは宇宙探査の新たな手段を確立しました。言葉が出ないほど感動しています」とコメントし、SCI運用の成功を宣言した。
SCIの装置開発と当日の運用計画の策定を担当したプロジェクトエンジニアの佐伯孝尚さんは、「SCIは一度分離してしまったらやり直しがきかない装置であることが大きなプレッシャーだった。短期間での開発と探査機の安全性を両立することができ、ようやく肩の荷が下りた気分」とコメントしている。
SCI運用での科学観測を担当した神戸大学の荒川政彦さんは、DCAM3の画像を見た印象として、
- イジェクタ・カーテンの高さは数十mと推定される
- 向かって右側の噴出物の方がよく見えていて、左側はあまり見えていない。衝突体がぶつかった場所が斜めだったか、衝突箇所の一部に大きな岩塊があって部分的に粒子があまり出なかったなど、様々な可能性が考えられる
- 硬い岩塊が破壊されただけではここまで綺麗なイジェクタ・カーテンは出ないので、明瞭な人工クレーターができていると期待できるのではないか
- この画像のカーテンはまだ成長段階で、この後もっと低速の噴出物が出てさらに大きく広がった可能性もある
と述べている。
現在「はやぶさ2」は、リュウグウの周辺に漂っている飛散物を避けるために、リュウグウからやや距離を取りつつホームポジションへ戻っている最中だ。4月8日の時点ではリュウグウから約100km離れた位置を飛行しており、4月16日ごろホームポジションに復帰する予定になっている。その後、4月22日の週には衝突地点付近を低高度から撮影し、今回できた人工クレーターを探索することにしている。
(文:中野太郎)
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