「はやぶさ2」降下中止も「けがの功名」で画像撮影に成功
【2019年5月27日 JAXA】
「はやぶさ2」は4月25日に小惑星リュウグウの表面に直径約10mの人工クレーターを作ることに成功した。6月下旬から7月上旬にかけて、このクレーターの周辺に着陸する「第2回タッチダウン」(運用名:PPTD)を行う予定で、クレーターから飛び散った新鮮な物質の採取を目指している。
このPPTDの着陸地点として、クレーター周辺で比較的岩が少ない3つのエリア(それぞれ約20m四方)が選ばれ、各エリア内で計11か所の候補地がピックアップされている。
5月16日に行われた低高度降下観測運用では、この3エリアの一つ、「S01」の上空に高度約10mまで降りて地形の詳しい観測を行うとともに、本番のタッチダウンで目印とする「ターゲットマーカー」を1個投下することになっていた。しかし、高度50mまで降下したところで「はやぶさ2」が何らかの異常を検知して自律的に降下を中止し、ターゲットマーカーを投下せずに上昇してホームポジションに戻った。
運用チームで原因の分析を行ったところ、探査機が降下中止と判断した理由は、「はやぶさ2」のレーザー高度計(LIDAR)が示す高度が一時的に約6000mという異常な値を示したためだったことがわかった。
この異常の原因は、今回の降下運用で初めてLIDARのプログラムを変更した点にあった。2月に行われた第1回タッチダウンの際に、LIDARから発射されたレーザー光がリュウグウ表面に置いたターゲットマーカーに当たってしまい、反射光の強さが一時的に跳ね上がるという事象が起こった。そのため、高度50m以下ではLIDARの受光感度を下げるように今回からプログラムの変更が行われたのだが、変更の仕方に問題があり、感度切り替えのタイミングで間違った高度値が一瞬だけ読み出されてしまう状態になっていた。
運用チームではすでに制御コマンドの修正を終えており、今後はこの問題は発生しないという。
このトラブルによって「はやぶさ2」は高度50mで降下をやめて上昇したが、リュウグウ表面の撮影を行うプログラムはそのまま動いていた。また、上昇する際に「はやぶさ2」が横方向にもわずかに速度を持っていたため、偶然にも人工クレーターやPPTDの着陸候補地点の上空を通ることとなり、3つの候補エリアすべてをこれまでにない解像度で撮影することができた。
運用チームではこのとき得られた画像を使い、早くも地形の立体視や岩塊のサイズ算出などを行うことができたという。ターゲットマーカーは投下できなかったものの、候補地の比較検討については、最大3回の低高度運用で1エリアずつ観測するつもりが一度の運用で3エリア全ての詳細なデータを得ることができ、「けがの功名」となった形だ。
低高度運用のチャンスは日程的にはあと2回となるため、候補エリア3つのうち、人工クレーターに最も近く、科学的に「本命」とみられている「C01」と、クレーター生成前から有力候補とされてきた平坦地「S01」の2エリアに絞り込み、人工クレーターからやや遠い「L14」エリアは着陸地候補から外されることとなった。今後は5月28〜30日と6月10日の週に「C01」「S01」エリアの詳細観測とマーカー投下を行って、PPTDの着陸地点が最終決定される予定だ。
(文:中野太郎)
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