温度の低い新星爆発で生まれた分子を検出

このエントリーをはてなブックマークに追加
アマチュア天文家と京都産業大学のグループの共同観測で、カシオペヤ座の新星から炭素分子とシアンラジカル分子が見つかった。新星での検出は史上2例目だ。

【2021年2月9日 京都産業大学

質量が比較的軽い星は一生の最期に赤色巨星となり、外層の物質を失った後で炭素や酸素などからなる中心部だけが残される。この芯は白色矮星と呼ばれ、質量は太陽ほどだが大きさは地球程度しかないという高密度でコンパクトな天体である。

この白色矮星と、太陽のような普通の星や大きく膨らんだ赤色巨星とが近接連星系を形成しているとき、白色矮星に相手の星からガスが流れ込む。白色矮星の表面に降り積もったガスの量が限界を超えると、その表面で水素の核融合反応が暴走的に起こって莫大なエネルギーが発生する。表面のガスはこのエネルギーを受け取って巨大な火の玉のように膨れ上がり、明るく輝く。これが新星爆発だ。膨張したガスはやがて周囲にまき散らされ、数か月から数年かけて暗くなっていく。

通常、新星爆発直後の火の玉は表面温度が10万度を超え、太陽の10倍以上の大きさまで膨らんで明るさがピークを迎えるころには1万度程度になるが、過去には温度の低い新星爆発が観測された例もある。2012年3月に西村栄男さんが発見した、へびつかい座に出現した新星「へびつかい座V2676」(V2676 Oph)では、爆発時の光から、炭素原子が2つ結合したC2分子と、炭素と窒素が結合したCN分子(シアンラジカル)のスペクトルが見つかった。これらの分子は火の玉の温度が約5000度以下にならないと生成されないことから、V2676 Ophは通常よりも火の玉が大きく膨らんで温度が大幅に下がった特殊な例であることが明らかになった。

京都産業大学神山天文台での観測で明らかになったこの発見は、新星でのC2分子の検出は世界初、CN分子も世界2例目という非常に珍しいものであった。その後、これらの分子に含まれる炭素原子などの同位体の分析から、新星爆発の放出物質が太陽系を形づくる材料になった可能性も示された(参照:「太陽系の物質は新星爆発でも作られていた」)。

新星爆発で作られる物質が星・惑星系の材料になることを表すイラスト
新星爆発で作られる物質が星や惑星系の材料になることを表すイラスト。新星爆発ではC2やCN以外にも様々な分子が作られ、それらが集合した塵の粒子が宇宙にまき散らされて、太陽系のような星・惑星系の材料の一部になったと考えられている(提供:京都産業大学/NASA/JPL-Caltech)

以降、神山天文台では世界各地の天文台や観測者と協力してV2676 Ophのような低温の新星を探してきたが、発見には至っていなかった。C2分子やCN分子のスペクトルは新星の爆発からわずか1週間ほどで消えてしまうため、検出が非常に難しいのだ。

2020年7月、カシオペヤ座に新星V1391 Casが出現した。翌月、岡山県のアマチュア天文家・藤井貢さんと神山天文台がこの新星を観測したところ、C2分子とCN分子が検出された。V2676 Oph以来、史上2例目となるC2分子とCN分子の検出成功である。また、スペクトルの時間変化を追跡したところ、3日ほどでC2分子とCN分子の吸収線が消えることも突き止められた。

スペクトルの変化
V1391 Casのスペクトルの時間変化。等級(全体の明るさ)や見られる成分(明るい部分や黒い部分の位置や強度)が日ごとに変化していくことがわかる。黄色い矢印の部分はC2分子による吸収線(提供:京都産業大学)

今回の発見は、新星爆発のメカニズムや太陽系の起源の解明につながる重要なものだ。新天体の発見や追加観測の分野では藤井さんや西村さんのようなアマチュア天文家の貢献も非常に大きく、今後も研究者との連携が期待される。