117億光年彼方の銀河が見せるアインシュタインリング
【2015年4月8日 アルマ望遠鏡】
うみへび座の方向117億光年の距離に位置する銀河SDP.81は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の赤外線天文衛星「ハーシェル」によって発見された銀河(参照:アストロアーツニュース:「天文衛星ハーシェルが隠れた能力発揮、遠方銀河の重力レンズ像を複数発見」)で、天の川銀河の約500倍のペースで星を生み出す「爆発的星形成銀河」の1つだ。アルマ望遠鏡がこの銀河を電波観測し、美しい円形の像をとらえた画像が公開された。
円形の像は「アインシュタインリング」と呼ばれるもので、地球から35億光年の距離にある別の銀河の巨大な重力によってSDP.81から来る光が歪められ、円弧状に引き伸ばされて見えている。過去の電波望遠鏡による観測では左右の明るい部分しか見えておらず、これほど完璧なアインシュタインリングがとらえられることは、可視光観測でも電波観測でもひじょうに珍しい。今回の観測で最高の解像度は0.023秒角(満月の見かけの約78000分の1、人間の視力に換算すると2600)に達しており、この高い解像度と高感度によって初めて得られた成果である。
「この画像を初めて見た時は、たいへんおどろきました。アインシュタインリングの細部をここまではっきりと示している前例はありません。この画像から、手前の銀河の質量分布の詳細がわかるとともに、初期宇宙における星形成と分子ガスの関係を探ることができます。銀河の誕生という大きな謎の解明に向けて、また一歩前進すると期待されます」(国立天文台チリ観測所 伊王野大介さん)。
一酸化炭素分子が放つ電波の観測からは、SDP.81内部の複雑なガスの運動が見てとれる。銀河の性質をより深く議論するためには重力レンズ効果を詳細にモデリングする必要があるが、アルマ望遠鏡がもたらした高品質のデータを使うことで、これまでにないほど精緻な重力レンズ効果の検証が可能になると期待されている。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡: アルマ望遠鏡、遠方銀河と小惑星を超高解像度で撮影
- The Astrophysical Journal Letters: ALMA Long Baseline Observations of the Strongly Lensed Submillimeter Galaxy HATLAS J090311.6+003906 at z=3.042 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡: http://alma.mtk.nao.ac.jp/
- 星ナビ.com: http://www.hoshinavi.com/
- 2015年5月号 「標高5000メートルに開かれたALMAの目」
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