一見オーロラのような、紫色の発光現象「スティーブ」
【2018年3月22日 NASA】
2016年7月25日の真夜中、カナダ・サスカチュワン州に住むアマチュア天文家Notanee Bourassaさんがオーロラを見ようと空を見上げたところ、紫色のひらひらとした細いリボンのような現象に出会った。オーロラを約30年間見てきた経験から、Bourassaさんはこれがオーロラではなく何か他のものであるとすぐに理解し、この光を急いで写真に収めた。光は20分ほどで消えてしまった。
こうした謎の光は市民科学者たちによって2015年から2016年にかけて30件ほど報告されており、オーロラ観測を目的とした市民参加型のサイエンスプロジェクト「Aurorasaurus(オーロラサウルス)」を立ち上げていた研究者チームの間でも話題となっていた。この現象には「Steve(スティーブ、現在公式には『STEVE』と大文字で表記)」という名前が付けられた。
当初は正体不明であったスティーブだが、Bourassaさんが撮影を行った夜に地上全天カメラや地磁気観測衛星「Swarm」も同じ現象をとらえていたおかげで、理解や研究が大きく進むことになった。
スティーブは普通のオーロラは異なるものだ。オーロラは全球規模で楕円形に発生して数時間持続し、主に緑や青、赤い色で光る。一方、スティーブは始まりと終わりのある1本の紫色の線で、波打つ緑色の横筋が見られ、20分から1時間ほどで消える。
両者は、太陽から届く荷電粒子と地球の磁力線との相互作用で形成されるという点では同じようなものだが、スティーブはオーロラとは異なる磁力線に沿って移動する。全天カメラによる観測からは、スティーブはオーロラよりもずっと低緯度の地域に発生していたことがわかり、スティーブを形成する荷電粒子が赤道寄りの磁力線とつながりがあることを示唆している。
また、Swarmの観測データから、スティーブが「サブオーロラ帯イオンドリフト(SAID)」と呼ばれる、高速で移動する非常に高温の粒子の流れを構成していることが示された。SAIDは1970年代から研究されてきたが、目に見える現象を伴っていることはこれまでまったく知られていなかった。
スティーブが、ほとんどのオーロラが発生する緯度よりも低緯度のサブオーロラ帯で発生するということは、この領域で起こる未知の化学反応が光の放射につながっているということを意味している。また、スティーブはいつもオーロラと共に現れており、これは地球に近い宇宙空間で起こっている何かが、オーロラとスティーブの両方の発生につながっていることを意味している。
スティーブは、より高緯度のオーロラ帯と低緯度のサブオーロラ帯との間にある化学的、物理的なつながりを示す唯一の目に見える手がかりかもしれない。「地球の上層大気内で起こる化学的、物理的プロセスが、どのようにして大気の低層域に、局所的で人目を引く現象を引き起こすのかを理解するために、スティーブは役立ちます。そして、様々な要素が相互に作用する『地球システム』が、全体としてどのように働いているのかを理解するための有益な情報となるのです」(NASAゴダード宇宙センターおよびオーロラサウルス代表 Liz MacDonaldさん)。
「知れば知るほど疑問が沸いてきて、わくわくします。私たちのタイムリーな目撃報告と観測で取得されたデータから、スティーブの起源や形成、物理や散発的な発生といった謎が明らかにされることを願っています」(Bourassaさん)。
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〈参照〉
- NASA:
- Science Advances:New science in plain sight: Citizen scientists lead to the discovery of optical structure in the upper atmosphere 論文
〈関連リンク〉
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