日本より涼しい? 気温たった25度のY型星を発見
【2011年8月24日 NASA】
赤外線天文衛星「WISE」のデータから、星のスペクトル分類のうち最も低温で暗い「Y型星」が初めて見つかった。太陽系から40光年以内に6個発見されたもので、そのうち1つは表面温度が摂氏25度という観測史上最も低温の星である。
恒星は、宇宙空間の塵やガスが集まって高温になり、核融合を起こして光や熱のエネルギーを放出しはじめることで生まれる。集められた材料が多いほど高温で明るく輝き、その寿命は短い。
星は高温で明るい方からO、B、A、F、G、K、M、L、T、Yとタイプ分けされ、太陽はG型に属する。最も低温で暗いT型とY型は「褐色矮星」と呼ばれており、低温のため核融合をじゅうぶんに行うことができない。暗くくすぶっている、いわば「星のなりそこない」のような天体だ。暗いため可視光では観測できないが、その熱によって放たれる赤外線を観測することでその存在を知ることができる。
今回、NASAの赤外線天文衛星「WISE」の観測データから100個の褐色矮星が発見され、そのうちの6個が初発見となった幻の天体「Y型星」であることが判明した。その1つ「WISE 1828+2650」は表面温度がたった摂氏25度という。もちろん、星の最低温度の新記録だ。
またこれらの星は、太陽系から40光年以内と比較的近距離に位置している。一番近い「WISE 1541-2250」までの距離は約9光年で、知られている星の距離ランキングの7位に相当する近さだ(シリウスが約8.6光年で第5位)。
WISEサイエンスチームの一員で、100個の褐色矮星発見に関する発表を行ったDavy Kirkpatrick氏は「今まで見つかった褐色矮星はオーブンで焼いているぐらいの温度。今回のY型星は文字通り人体と同じくらいの温度ですから、キッチンからリビングルームの領域へ到達したといえますね」と語る。Y型星に関する発表は、同じくWISEチームのMichael Cushing氏らの研究によるものだ。
これらの研究は、WISEのデータに見られた褐色矮星と思しきものをさらに赤外線天文衛星「スピッツァー」で確認してしぼりこみ、米・ハワイ島のW.M.ケック天文台などの地上望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡によるスペクトル観測で大気の成分や温度を調べる、という作業を経て行われた。
褐色矮星の研究は、星の形成過程や、太陽系外の惑星の大気について理解を深めることにつながる。褐色矮星の大気は、系外惑星の多くを占める木星型巨大ガス惑星(ホットジュピター)のそれと似通っているが、褐色矮星の方は主星を持たず独立しているために邪魔な光がなく、ずっと観測しやすいのだ。
WISEの観測データからは他にも、もしかしたらもっと近くにある星も見つかるかも知れないと期待されている。
2009年12月に打ち上げられたWISEは、赤外線全天サーベイ観測などのミッションを完了した後、現在は冬眠モードに入っている。その観測データから新たな発見を求めて、現在も日々研究が進められている。