木星の水はシューメーカー・レヴィ彗星がもたらした
【2013年4月25日 ヨーロッパ宇宙機関】
人類が目撃したもっとも劇的な天体ショーの1つ、1994年7月に起こったシューメーカー・レヴィ彗星の木星衝突。世界中の天体望遠鏡が向けられたこの現象が木星大気の水をもたらしたという、決定的な証拠が見つかった。
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の赤外線天文衛星「ハーシェル」が、木星大気の水は1994年に衝突したシューメーカー・レヴィ彗星が運んできたものだという決定的な証拠を見つけた。
シューメーカー・レヴィ彗星(D/1993 F2)は1993年3月に発見され、20個以上に分裂した彗星核が1994年7月17日から数日間にわたって木星の南半球に次々と衝突(注)した。その規模は予想以上に大きく、衝突の瞬間のきのこ雲の発光が地上からもとらえられた。その衝突痕は、研究者だけでなく天文愛好家の小口径の天体望遠鏡でも観測され、数週間も残った。
この一大事の翌1995年、ESAが打ち上げた赤外線宇宙望遠鏡(ISO)の観測により、初めて木星の大気に水が発見された。シューメーカー・レヴィ彗星で運ばれたものと考えられるという見方が広まったものの、直接の証拠はない。水が見つかった成層圏の底に、低温で水蒸気を通さない天然の「コールドトラップ」があることから、天体内部ではなく外部からやってきたことだけはわかっていた。
この長年の謎を、ESAの赤外線天文衛星「ハーシェル」が解き明かした。木星の水の分布を調べたところ、彗星が衝突した南半球には北半球の2、3倍もの水があり、しかもほとんどが彗星の衝突位置に集中していることがわかったのである。
継続的に降ってくる塵の微粒子が運んできたのなら水は均一に分布するはずだし、今回観測されたような高高度だけでなくもっと低層にまで到達しているだろう。またたとえ氷で覆われた衛星が由来としても、観測されたような分布にはならないはずだ。ハーシェルの観測と同時期の2009年と2010年には小天体衝突が目撃されているが、同時に得ていた温度分布データから、これらの現象も要因とはなりえないことがわかっている。
こうして、シューメーカー・レヴィ彗星が水の起源であることが本決まりとなった。
この研究を発表したThibault Cavaliéさん(仏ボルドー宇宙物理学研究所)によると、木星の成層圏に存在する水の95%がシューメーカー・レヴィ彗星の衝突で運ばれたものと見積もられる。
「太陽系の4つの巨大惑星、すなわち木星や土星、海王星、天王星はすべて水が存在しています。ただし、その由来はすべて違います。木星に関しては、そのほとんどがシューメーカー・レヴィ彗星が由来ということが今回明らかになりました」。
宇宙における天体衝突を人類が初めて目の当たりにした劇的な天体ショーは、「惑星への水の供給を人類がリアルタイムで目撃」という、別の意味での奇跡の瞬間でもあったのだ。
注:「木星への衝突」 シューメーカー・レヴィ彗星が木星に衝突することを最初に予測したのは、月刊誌『星ナビ』で「新天体発見情報」を連載中の中野主一さんだった。