生命がいなくても酸素が豊富な地球型惑星は存在しうる
【2015年9月11日 アストロバイオロジーセンター】
宇宙における生命探し(宇宙生物学、アストロバイオロジー)は、天文学だけでなく幅広い科学全般において現在非常に注目されている研究分野である。これまでのところ太陽系内では地球以外に確たる生命活動は知られていないが、太陽系外にはすでに約2000個もの系外惑星が発見されており、その中には組成や温度環境が地球に似たものも見つかってきているので、生命の発見も期待されるところだ。
こうした太陽系外惑星に生命活動があるかどうかを推測する方法の一つに、酸素の存在を調べるというものがある。惑星の大気に酸素が検出されれば、それを生み出す生命が必ずいるはずだという考えから、酸素をバイオマーカー(生命活動の目印)として生命探査を行うのだ。しかし、非生物的な化学反応でも酸素は発生するので、その影響も見積もる必要がある。
アストロバイオロジーセンターの成田憲保さんと分子科学研究所の正岡重行さんらの共同研究グループは、太陽系の地球型惑星や衛星などにも豊富に存在している酸化チタンの光触媒反応によって非生物的に酸素が発生することに着目した研究を行った。
地球に類似した環境の惑星を仮定した場合、惑星表層の0.05%程度(地球でいえば北海道の面積以下)で酸化チタンの光触媒反応が継続すると、現在の地球と同程度の酸素大気が発生・維持されることが推定できた。また、主星(太陽)の質量や温度を変えた計算からは、光触媒反応が最も起こりにくい低温度星の場合でも惑星表層の約3%で酸化チタンの光触媒反応が起これば、非生物的に酸素大気が発生・維持されると推定された。
つまり、光合成を行う生物が存在しなくても、太陽系外の生命居住可能惑星に地球と同程度の酸素大気が発生してしまう可能性が十分にあることが明らかになったのである。
「酸素大気があれば必ず生命がいるというわけではないことがわかり、新たなバイオマーカーも検討していく必要がでてきました。何が生命存在の決定的証拠となるのか、様々な学問分野の知見を取り入れたアストロバイオロジー研究の取り組みが重要です。また、本研究とは独立に、系外惑星の環境でも光合成生物による酸素発生型光合成が可能なのかどうかについてや、先に非生物的に発生した酸素を保持する星で生命が後から誕生することが可能なのかどうかについても、今後明らかにしていかなければなりません」(成田さん)。
〈参照〉
- アストロバイオロジーセンター: 生命がいなくても酸素を豊富に保持する地球型惑星の存在可能性を示唆、アストロバイオロジー(宇宙における生命)研究に期待
- 国立天文台: 生命がいなくても酸素を豊富に保持する地球型惑星の存在可能性を示唆――アストロバイオロジー(宇宙における生命)研究に期待
- 分子科学研究所: 生命がいなくても酸素を豊富に保持する地球型惑星の存在可能性を示唆 アストロバイオロジー(宇宙における生命)研究に期待
- Nature Scientific Reports: Titania may produce abiotic oxygen atmospheres on habitable exoplanets 論文
〈関連リンク〉
- アストロバイオロジーセンター: http://www.nins.jp/abc/
- 国立天文台: http://www.nao.ac.jp/
- 分子科学研究所: https://www.ims.ac.jp/
- 星ナビ.com こだわり天文書評:
〈関連ニュース〉
- 2015/08/26 - 太陽系外惑星に名前を!一般投票スタート
- 2015/08/10 - 地球から21光年先のスーパーアース
- 2015/07/27 - 太陽と同タイプの恒星のハビタブルゾーンに地球サイズの系外惑星
- 2014/12/02 - 40光年彼方の“太陽”を横切るスーパーアース、地上から観測
- 2014/04/18 - ハビタブルゾーンにある地球サイズの惑星を初めて発見
- 2013/06/27 - グリーゼ667Cのハビタブルゾーンに複数の系外惑星
- 2013/06/13 - 晴天のスーパーアース
- 2013/04/19 - ハビタブルゾーンに地球の1.4倍の惑星
- 2012/12/20 - 12光年かなたにハビタブルゾーンの惑星
- 2012/10/15 - 40光年先に発見 地球型ダイヤモンド惑星
- 2012/07/03 - VLTで地球に最も近い系外惑星の分光観測に成功
- 2012/05/09 - スーパーアースからの光を初検出
- 2012/02/23 - 濃い水蒸気に覆われた新種のスーパーアース
- 2012/02/09 - 低金属星のハビタブルゾーンに見つかったスーパーアース
関連記事
- 2024/09/11 ホットジュピターの内側で、公転が大きく変動するミニ海王星
- 2024/07/29 「灼熱の土星」型の系外惑星で大気から水蒸気の証拠を検出
- 2024/06/18 想定外の軌道を持つ「ミニ海王星」を発見
- 2024/05/30 ローマン宇宙望遠鏡の系外惑星観測用コロナグラフが準備完了
- 2024/05/27 宇宙生命探査の鍵となる「太陽系外の金星」を発見
- 2024/05/21 超低温の赤色矮星で2例目、地球サイズの系外惑星を発見
- 2024/04/18 植物の排熱が地球や系外惑星に及ぼす影響
- 2023/12/05 共鳴し合う6つ子の系外惑星
- 2023/11/16 酸素は131~133億年前の宇宙で急激に増えた
- 2023/08/02 蒸発する惑星が引き起こす「しゃっくり」
- 2023/07/28 巨大惑星に収縮する前の塊、若い星の周囲で発見
- 2023/07/27 次々見つかる浮遊惑星、天の川銀河に1兆個以上存在か
- 2023/07/20 132億年前の銀河の暗黒星雲と巨大空洞
- 2023/07/14 公式ブログ:ペガスス座51番星系で新星座を考える
- 2023/05/25 火山活動の可能性がある地球サイズの系外惑星
- 2023/04/21 アストロメトリと直接撮像の合わせ技で系外惑星を発見
- 2023/04/04 「ケプラー」発見の天体で最も近い地球型惑星
- 2023/04/03 木星と土星の共鳴が鍵、地球型惑星と小惑星帯形成の統一シナリオ
- 2023/01/17 光合成の蛍光から系外惑星の生命を探す
- 2022/12/22 低密度の系外惑星、「煮えたぎる海洋惑星」か