「すざく」、銀河団プラズマの速度を世界初測定 暗黒物質を知るカギに
【2011年11月28日 宇宙科学研究所】
宇宙科学研究所の研究チームがX線天文衛星「すざく」の精密な観測により、銀河の集団に含まれるプラズマ領域の運動速度を世界で初めて測定した。銀河団の形成進化や、それを重力で支配する謎の暗黒物質の解明に向けて、直接的で重要な情報を得たことになる。
星が多数集まると銀河となり、銀河が集まると銀河団になる。銀河団は「星の究極の集まり」だが、目に見える星をすべて合わせたよりもずっと質量の多いプラズマ(原子から電子が離れた状態)領域が含まれている。
宇宙科学研究所(ISAS)の田村隆幸助教らは、こぐま座の方向8.4億光年先にある銀河団「Abell 2256」で2つのプラズマ領域が衝突している現場を、X線天文衛星「すざく」で詳細に観測した。その結果、これらがおよそ秒速1500kmで衝突しており、数億年後には合体する見込みであることがわかった。
目で見える銀河の運動速度についてはこれまでも測定することができたが、X線で光るこうした銀河団プラズマの速度が測定されたのは世界で初めてだ。銀河の運動に加えて、プラズマの運動についての情報が得られたことで、銀河や銀河団の形成進化を明らかにするための確実な情報がひとつ揃ったことになる。また、銀河団に含まれる暗黒物質(注)の量や分布などを知る手がかりにもなる。
研究チームでは、今回のような「衝突銀河団」以外のさまざまな銀河団にあるプラズマを観測し、その運動の系統的な観測を目指している。「すざく」の20倍もの分解能を持つ開発中の衛星「ASTRO-H」に大きな期待が寄せられる。
注:「暗黒物質」 現時点では直接検出されておらず、それが持つ重力によって他の天体の運動や形成に影響を及ぼす、正体不明な「何か」を指す。