「はやぶさ2」がリュウグウを出発、地球帰還へ
「はやぶさ2」は10月3日に最後の大きな任務となる小型機「MINERVA-II2」の分離を完了した後、低高度からリュウグウを観測する最後の「BOX-C運用」を10月19~30日にかけて行った。
「はやぶさ2」プロジェクトチームでは、当初計画されていた全てのミッションを完了し、リュウグウで達成すべき成果目標を全てクリアしたことを確認した。これを受けて、昨年6月から約1年5か月間にわたって続いたリュウグウでの「小惑星近傍運用フェーズ」を11月13日に終了し、「地球帰還フェーズ」に移行することを決めた。
13日午前10時05分(機上時刻、日本時間)、「はやぶさ2」は化学推進系スラスターを予定通り噴射して、秒速9.2cmというゆっくりした速度で高度20kmのホームポジションから離脱を始めた。
予定では、11月18日には「はやぶさ2」はリュウグウから65kmの距離まで離れ、リュウグウの重力が支配的な領域(ヒル圏)を脱する。ここからは探査機の姿勢を変えて太陽電池パネルが太陽の方向を向くようにするため、この日以降はリュウグウを撮影することはできなくなる。
プロジェクトチームでは、11月13~18日の間は「リュウグウお別れ観測」として、「はやぶさ2」の望遠カメラ(ONC-T)を使って遠ざかるリュウグウの姿を随時撮影し、「はやぶさ2」プロジェクトwebサイトで公開するという。
その後、11月20日から12月2日にかけてイオンエンジンの試運転を行って状態を確認し、12月3日から本格的にイオンエンジンを運転して地球に帰る巡航モードに入る予定だ。
リュウグウ出発を前にして、「はやぶさ2」プロジェクトマネージャの津田雄一さんは、「リュウグウは『美しい小惑星』という第一印象で、この天体とこれから付き合っていくんだなと最初は思ったが、すぐに『付き合っていく』から『戦う』に変わり、胸を借りるように取り組まざるをえなかった。リュウグウの方が我々より一枚も二枚も上手で、大胆に挑戦するしかなかったが、結果として当初の予想をはるかに超える成果を得ることができた。リュウグウの探査は想像以上に難問だったが、おかげで我々の技術レベルを引き上げてもらい、リュウグウには感謝している」とコメントした。
ミッションマネージャの吉川真さんは、「昨年2月の最初の画像ではリュウグウは小さな点にすぎなかったが、今や我々は到着前よりもはるかにたくさんの知識を手にしている。1年5か月はあっという間だった。リュウグウがこんな形をしているとは誰も思っていなかった。やはり自然は面白い。まだまだ未知の世界が広がっている太陽系をこれからも探っていきたい」と述べた。
JAXA宇宙科学研究所研究総主幹の久保田孝さんは、「開発から打ち上げ、イオンエンジン運転、到着、姿勢制御、航法着陸と、たとえるなら駅伝のような形で、みんながリレーをして往路は完璧にこなすことができた。これから復路に臨むが、挑戦なくして成功はない。地球にカプセルを戻すために、チーム一丸となって取り組みたい」と語った。
また、「はやぶさ」初号機でイオンエンジンの開発を担当し、2015年3月まで「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャを務めたJAXA宇宙科学研究所の國中均所長は、「これから、イオンエンジンを点火し、最大推力で全速前進。『なにもかも皆懐かしい地球』に帰ります。帰還運用も確実に実施し、地球にサンプルを持ち帰ります。様々な挑戦への成功が、今後の多くの宇宙科学・探査計画を推し進める契機になると信じています」と、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の沖田十三艦長の名台詞を引用してメッセージを寄せている。
リュウグウ出発にちなんだ企画も開始
プロジェクトチームでは「〝さよならリュウグウ〟キャンペーン」と題して、リュウグウを撮影できなくなる11月19日まで、リュウグウや「はやぶさ2」についてのメッセージを募集している。メッセージは以下の方法で送ることができる。
- Twitter:ハッシュタグ「#SAYONARA_Ryugu」を付けてツイート
- 郵便:〒252-2510 相模原市中央区由野台3-1-1 JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクト 宛
また11月16日(土)には、Twitterで受け付けた質問に「はやぶさ2」のプロジェクトメンバーがリアルタイムで答える企画「なぜなに はや2」が行われる。16日15:00~16:30の間に、ハッシュタグ「#haya2_QA」を付けて質問内容をツイートしてみよう。
(文:中野太郎)
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