2013年天文ゆく年くる年
【2013年12月27日 アストロアーツ】
今年も残りあと5日。世界を騒がせたあの大事件に、悲喜こもごもの彗星ラッシュ。「何が起こるかわからない」宇宙の不思議を実感した2013年を、天文ニュースとともに簡単に振り返ってみよう。2014年注目の天文イベントも紹介。
ロシアを襲った隕石ショック
2013年最大の宇宙トピックといえば、ロシアを襲った小天体落下だろう。2月15日、推定幅17mの小惑星が地球の大気に飛び込み、チェリャビンスク地方上空で分裂。衝撃波により広範囲にわたって建物のガラスが割れ、1000人以上が負傷した。郊外の湖で数百kgもの隕石が回収されている。
知られる限り1908年の「ツングースカ大爆発」以来の規模、しかも人間の生活圏を襲った今回の事象は、隕石落下の瞬間が多くの車載カメラにとらえられるなど大きなインパクトを与えた。
奇しくも約16時間後には小惑星2012 DA14の近距離通過を控えていた時。両天体は無関係であることがすぐに判明したものの、大規模な天体衝突が現実に起こりうるという実感を増幅させる出来事となった。
アイは消えラブが輝く 話題満載のコメットイヤー
もうひとつの大きな話題は、何といっても彗星ラッシュ。こちらは天文ファンが心待ちにした来訪者だ。
まず春にはパンスターズ彗星(C/2011 L4)が日本の空に現れた。予測ほどには明るくならず、春の低空という条件で多くの観測者にとっては双眼鏡で見るのがやっとだったが、撮影では大きく広がった見事な尾がとらえられた。
2014年最大の注目だったアイソン彗星(C/2012 S1)は、一般の人々からは肉眼でも明るく見える大彗星として、研究者たちからは太陽系初期のようすを伝えるタイムカプセルとして期待を集めたものの、11月29日の太陽最接近で消滅してしまった。
満を持して登場したグッズの値下げなど失望が広がる中、救いとなったのがラブジョイ彗星(C/2013 R1)だ。2013年9月に発見されてから順調に増光し、双眼鏡で楽に見える4等級をピークに安定した輝きを見せている。年が明けてもしばらくは楽しめるだろう。
10月にはリニア彗星(C/2012 X1)がアウトバーストして8等級まで急増光。さらにエンケ彗星(2P)も11月22日に近日点通過をむかえ、10月から11月にかけての明け方の東の空に4つの明るい彗星が一堂に会するにぎわいを見せた。
新天体出現と流星群
隕石や小惑星、彗星のほかにも空にはさまざまな天体が現れた。山形の板垣公一さんが発見したいるか座の新星は、2007年以来の肉眼で見える新星となった。ベテラン板垣さんによる超新星発見は今年で通算88個に。2012年10月に初めて発見した超新星が分光観測報告漏れにより符号が付けられないという不運があった東京の嶋邦博さんも、今年12月に見事2個目をゲット。こちらは無事2013gvの符号が付与された。3月11日には徳島県の岩本雅之さんが岩本彗星を発見。日本人では3年ぶりの快挙を果たした。
毎年恒例の流星群は、8月のペルセウス座流星群が好条件で夏の夜空を飾った。例年は控えめな5月のみずがめ座η流星群もいつになく活発な出現を見せ、来年以降の動向が注目される。安定のふたご座流星群は、今年も月明かりに負けることなく冬の澄んだ空を駆け抜けた。
大きく広がった太陽系外の世界
宇宙探査でも、大きなマイルストーンとなる出来事があった。1977年に地球を旅立った探査機「ボイジャー1号」がついに太陽圏を脱出。人の手で作られたものが初めて恒星間空間を飛行することとなった。
多くの系外惑星を次々と発見し、太陽系外の世界の概念を大きく変えてきた衛星「ケプラー」は、8月に起こった姿勢制御機構の故障により本来のミッションが続行不可能となってしまったが、そのデータからは、恒星からの距離、組成、サイズなどさまざまな意味で地球に似た惑星が続々と発見されている。10月にはこれまでに確定した系外惑星の数が1000個を超えた。
3月に本格稼働を開始したチリの巨大電波望遠鏡アルマは、恒星や惑星系の誕生、銀河の形成について詳細を伝える新たな像を浮かび上がらせるだろう。
さらに全宇宙レベルでは、欧州の天文衛星「プランク」による高精度の観測をもとに宇宙の年齢が137億歳から138億歳に更新された。すべての物質に質量を持たせるヒッグス粒子発見につながる理論に貢献したPeter W. HiggsさんとFrançois Englertさんのノーベル物理学賞受賞も、今年の科学界を代表するニュースだ。
太陽系探査
10月のアメリカ政府機関一時閉鎖により、NASAのウェブサイトが更新停止になったほか、火星探査機「メイブン」の打ち上げ準備も中断。大幅なミッション延期となるおそれもあったが、11月19日に無事打ち上げをむかえた。打ち上げロケットの余剰燃料放出にともなう噴射雲は日本からも目撃され、アイソン彗星目当てに明け方の空を見つめていたところに現れた「謎の雲」として、その正体がしばし論議を呼んだ(詳細は1月4日発売「星ナビ」2月号を参照)。
12月には、中国の「嫦娥3号」が37年ぶりの月面軟着陸を果たした。探査車「玉兎」の今後の活躍も楽しみだ。
日本から宇宙へ
今年11月には、JAXA宇宙飛行士の若田光一さんがソチ冬季五輪の聖火トーチをたずさえて国際宇宙ステーション(ISS)へ。従来は2日あまりかかっていたISSへの飛行が今年からは6時間に短縮され、宇宙がますます身近に感じられる場となっている。8月には日本の輸送機「こうのとり」4号機も無事ISSに物質を届けた。
9月には、日本の新型ロケット「イプシロン」が鹿児島県の内之浦宇宙観測所から打ち上げられた。輸送車の故障や打ち上げ延期、直前でのカウントダウン停止など初物ならではの困難を乗り越え、見事惑星分光観測衛星「ひさき」を軌道に載せた。
2014年の注目は10月8日皆既月食
2014年、日本で最も多くの人が見上げる天文イベントとなりそうなのが10月8日の皆既月食だ。2011年12月10日の皆既月食も好条件だったが、寒い時期に夜更かしして真上を見上げる必要があった。今回は日本時間の夜7、8時ごろに皆既となるので、さらに気軽に楽しめそうだ。
2014年の月のダンスパートナーは土星だ。月の公転周期ごとに視野角5度前後まで接近し、大接近や昼間の土星食(9月28日)も繰り広げられる。年前半を通じて、赤い火星と純白のスピカが常に寄りそいながら接近と大接近(7月中旬)を繰り返すようすも注目してみよう。
8月中旬には、明け方の空で木星と金星が大接近する。マイナス等級の惑星コンビが、迫力ある輝きを夏休みの朝に届けてくれるだろう。その木星では、年後半からはガリレオ衛星同士の相互食も見られる。
流星群は、1月4日未明が見ごろのしぶんぎ座流星群が好条件。8月のペルセウス座流星群は、満月を過ぎたばかりの月明かりの中でどれだけ見えるか。12月のふたご座流星群は夜半過ぎに月が昇るそこそこの条件だが、例年同様安定した出現が期待される。
前代未聞のミッションへ
2014年度には、あの「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」が小惑星1999 JU3に向けて打ち上げられる。小惑星の観測とサンプル採取を行い、東京五輪が開催される2020年に地球に帰還する予定だ。欧州の探査機「ロゼッタ」は夏ごろにチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着。11月には搭載の着陸機「フィラエ」が史上初の彗星着陸探査に挑む。
2013年の訃報
- 藤田良雄氏(1月9日。104歳)
- 東京大学名誉教授。低温度星の分光学的観測研究の世界的権威者(関連ニュース)
- 内田勇夫氏(2月12日。81歳)
- 元・宇宙開発事業団(NASDA)理事長、日本宇宙フォーラム理事長
- 村山定男氏(8月13日。89歳)
- 元・五島プラネタリウム館長、天文学者。テレビ出演や講演会、天文学解説書執筆などを通して天文普及活動に活躍(関連ニュース)
- 長谷田勝美氏(9月7日。68歳)
- 愛知県の新天体捜索者。ウォルフ・ライエ型特異変光星など貴重な現象を発見(関連ニュース)
- スコット・カーペンター氏(10月10日。88歳)
- 米国の宇宙飛行士。いわゆる「マーキュリー7」の1人として米国初の宇宙飛行士に選ばれ、1962年に地球周回軌道飛行を行った
- ジョージ・ハービッグ氏(10月12日。93歳)
- 米国の天文学者。「ハービッグ・ハロー天体」の発見など、恒星の誕生や原始星の研究に貢献
改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。