55年前からの謎、月の裏側高地問題を解決
【2014年6月11日 Penn State University】
月の表側と裏側では、月の形成および進化の過程で地殻の厚みに差ができたため、裏側には「海」が存在していないのだという研究成果が発表された。
「子供のころ初めて月球儀を見たとき、月の表と裏があまりに違うので驚いたことを覚えています。裏側は山やクレーターだらけでした。一体海はどこにあるのか、それは1950年代からの謎でした」(理論モデルを発表したグループの米・ペンシルバニア州立大学所属 Jason Wrightさん)。
その謎は、旧ソビエト連邦が打ち上げた探査機「ルナ3号」によって月の裏側の画像が史上初めてとらえられた1959年から、「月の裏側高地問題(Lunar Farside Highlands Problem)」と呼ばれてきた。それまで誰も見ることができなかった月の裏側に、海が存在しないことが初めてわかったのである。
月の起源については、地球が形成されて間もないころ、火星サイズの天体が地球に衝突して破壊され、その破片から月が生まれたという考え(巨大衝突説)が広く受け入れられている。地球と衝突した天体は、ただ高温となって溶けたのではなく、その一部が蒸発した。そして、地球の周りを取り囲むように、岩石やマグマや蒸発した物質からなる円盤状の構造ができた。
さらに、形成されて間もないころの月は地球からの距離が現在の20分の1から10分の1ほどだったと考えられており、Wrightさんら研究グループでは、現在のように月がその表側を常に地球のほうに向けるような軌道周期をすぐにとるようになった点に着目したのである。月は地球よりかなり小さいため、冷えるのも早かった。そして、地球側に片方の面を当初から向けていたために、月の表側だけが、摂氏2500度以上と高温だった地球からの放射熱を浴びた。つまり、月の裏側はゆっくりと冷えていった一方で、表側はどろどろに溶けたままだったのだ。
この表と裏の温度変化が、月の地殻の形成に重要な役割を果たした。月の地殻には、アルミニウムやカルシウムなど蒸発しにくい物質が密集している。「蒸気が冷えはじめたとき、最初に降り積もった物質はアルミニウムとカルシウムでした」(研究グループのSteinn Sigurdssonさん)。月の表側はまだ高温だったため、アルミニウムとカルシウムは冷たい月の裏側の大気中で凝縮した。それから数千年、数百万年経ち、それらの物質は月のマントル中でケイ酸塩と結合して斜長石を形成。そして、それが最終的に表面に移動して、地殻が形成されたという。つまり月の裏側の地殻は、より鉱物が多く、より厚くなったのだ。
今では月は完全に冷えて、表面下も融解してはいない。形成間もないころ、大きな天体が月の表側に衝突、さらに地殻にまで達して、大量の玄武岩質溶岩が放出され、現在見られるような月の海が形成された。一方、裏側に衝突したほとんど天体は、厚い地殻に穴を開けることはなかったため玄武岩質溶岩が噴き出すこともなく、谷やクレーターや高地が作られるのみだったのである。