X線が伝える新たな星の胎動
【2012年7月4日 ESA】
幼い星が高速で自転し高温のプラズマを放つ激しい活動の様子を、日本の「すざく」など3機のX線天文衛星がとらえた。そのX線の変動から、生まれつつある星で何が起こっているかが見えてくる。
原始星周囲の円盤
私達に身近な太陽も含め、恒星はガスとダスト(塵)の雲から生まれる。まず、ガスとダストが重力で収縮して密度の高い「原始星」ができ、残りの物質はその周囲を回る円盤となる。円盤中の物質は秒速数百kmもの猛スピードで中心に吸い寄せられ、大部分は原始星に取り込まれるが、一部は原始星の両極方向(円盤の鉛直方向)にジェットとして噴き出す。ジェットの勢いは、円盤の最中心部のエネルギー活動次第で変動する。
X線天文衛星で1300光年かなたの星を観測
NASAゴダード宇宙飛行センターの濱口健二さんらは、JAXAの「すざく」、NASAの「チャンドラ」、そしてESAの「XMMニュートン」という3機のX線天文衛星を用いて、こうした恒星の誕生の謎に迫った。上述のようなジェットは、周囲の厚いガスやダストに阻まれてしまうため可視光では観測が難しいが、X線放射は観測することができる。
観測対象となったのは、1300光年かなたの「マクニールの星雲」にあるオリオン座V1647星だ。2003年〜2006年、そして2008年から現在まで続く、2度の長期にわたる活発なジェット噴射の間、観測を実施した。
観測成果が示唆する原始星でのできごと
ジェットが活発な期間、恒星の質量は速く成長し、X線放射も増加、温度は5000万度にまで上昇している。濱口さんによれば、「星の表面やその周囲の磁場活動が、このような超高温のプラズマを作り出します。恒星と円盤の磁場の差動回転によって磁力線のねじれや切り離し、つなぎかわり(リクネクション)が起こり、こうした活動が維持されるのです」という。
また、星の自転によると思われる1日周期での変動も見られる。星のサイズから考えると非常に短く、自身がばらばらになってしまうほどの高速回転だ。
円盤物質は、恒星の表面で対になっている2箇所、パンケーキ状に集中しているエリアから取り込まれる(画像)。「超高温プラズマは、1日周期で自転するこの星の表面に位置していると考えられます。観測される変動は、その集中している部分が自転にともなって地球から見えたり見えなかったりすることから生じているのでしょう」(濱口さん)。
2004年から数回にわたって観測された規則変動からすれば、恒星と円盤のシステム全体は数年単位で安定しているとみられる。
「3つのX線天文衛星によるオリオン座V1647星の観測は、生まれつつある星の円盤の中で何が起こっているのかについて、新たな知見をもたらしてくれるのです」(「XMMニュートン」研究員のNorbert Schartelさん)