冥王星に広がる氷の平原
【2015年7月21日 NASA (1)/(2)/(3)/(4)/(5)/(6)】
探査機「ニューホライズンズ」が撮影した冥王星のクローズアップ画像に、クレーターのない広大な氷の平原がとらえられた。同地形の年齢は1億歳以下と若く、いまでも地質学的なプロセスが進んでいるのかもしれない。
氷原は、すっかり冥王星のシンボルとなった「ハート模様」(冥王星発見者クライド・トンボーにちなんで非公式に「トンボー領域」と名付けられている)中、南の領域に位置している。「スプートニク平原」(これも非公式)と名付けられたこの地形がどのようにできたのか、説明は簡単にできるものではなく、最接近前の予想を上回る発見だという。
連続する不規則な形は幅およそ20kmほどで、溝のように見える地形に囲まれ区切られている。溝の一部には暗い物質が存在し、溝に沿って周囲の地形よりも盛り上がった丘のような地形が集まっているところもある。さらに、表面に小さなくぼみができている領域も見られ、氷が昇華した際にできた可能性がある。氷原には同じ方向に揃った長さ数kmの暗い筋も見つかっており、氷原に吹く風が作ったものかもしれない。
また、可視光・紫外線撮像装置「Ralph」による観測から、同領域に一酸化炭素の氷の存在が明らかにされた。一酸化炭素の量は中心にいくほど増えているようだ。
データ量が膨大であり通信速度が遅いため、さらに高解像度の画像やステレオ画像が届くのはしばらく先のことになりそうだが、待ちきれないほど楽しみである。
冥王星の地表だけではなく、大気や上空の観測も行われている。ニューホライズンズが冥王星上空1600kmまでの大気を観測したところ、窒素の豊富な大気が広範囲に広がっていることがわかった。
また、冥王星周囲太陽風観測装置「SWAP」は最接近から1時間半後に太陽風内の空洞を観測し、冥王星の背後(太陽の反対方向)に10万km前後にわたって長く伸びる、窒素イオンで占められたプラズマの尾を検出した。大気が太陽風によってはぎとられ、宇宙空間へと放出されているのだろう。
今後、紫外線撮像装置「Alice」と電波実験装置「Rex」による大気計測データから、冥王星の大気喪失の割合が解明されるだろう。冥王星の大気と表面の進化の謎が明らかにされたり、太陽風との相互作用の範囲が決定できたりすると期待される。
冥王星最接近前の7月13日に59万kmの距離から撮影された衛星ニクスの画像も公開された。画像では丸い天体に見えるが、これは見る角度によるもので、ニクスの形状は長さ40kmほどの楕円体とみられている。
〈参照〉
- NASA:
- NASA’s New Horizons Discovers Frozen Plains in the Heart of Pluto’s ‘Heart’
- Frozen Plains in the Heart of Pluto’s 'Heart'
- New Horizons Reveals Pluto’s Extended Atmosphere
- Pluto Wags its Tail: New Horizons Discovers a Cold, Dense Region of Atmospheric Ions Behind Pluto
- Frozen Carbon Monoxide in Pluto’s 'Heart'
- Homing in on Nix, Pluto's Small Satellite
〈関連リンク〉
- 冥王星探査機ニューホライズンズ: http://pluto.jhuapl.edu/
- NASA: http://www.nasa.gov/
- 月探査情報ステーションブログ: http://moonstation.jp/ja/blog/
- 星ナビ.com:
- 2015年7月号 特集「ニューホライズンズ」「冥王星を探す・撮る」「発見者クライド・トンボー」
- こだわり天文書評:
- 「太陽系はここまでわかった」
- 「太陽系ビジュアルブック 改訂版」
- 「なぜ、めい王星は惑星じゃないの?」
- 「新しい太陽系」
- 「Planets Beyond - Discovering the Outer Solar System」
- 「IS PLUTO A PLANET?」
- 「Pluto Files」
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー: 冥王星
〈関連ニュース〉
- 2015/07/17 - カロンの大きな山と、冥王星観測85年史
- 2015/07/16 - 冥王星のクローズアップ画像公開、3500m級の氷山
- 2015/07/15 - ニューホライズンズ、史上初の冥王星フライバイを見事達成!
- 2015/07/14 - 従来より「大きくなった」冥王星
- 2015/07/13 - ニューホライズンズ、いよいよ明日冥王星に最接近
- 2015/07/09 - 冥王星の表面にクジラ、ドーナツ、ハート模様
- 2015/07/07 - ニューホライズンズ撮影、冥王星の最新高解像度画像
- 2015/07/06 - 通信トラブルも回復 ニューホライズンズの冥王星接近まで1週間
- 2015/06/30 - ニューホライズンズの冥王星最接近まで2週間
- 2015/06/16 - ニューホライズンズ最接近まで1か月、冥王星の最新画像
- 2015/06/09 - 冥王星の衛星「ニクス」と「ヒドラ」、予測不可能な不規則自転
- 2015/05/15 - ニューホライズンズがとらえた冥王星の衛星たち
- 2015/04/30 - 見えてきた冥王星表面の明暗、極冠の存在の可能性も
- 2015/04/16 - 接近探査まで3か月、冥王星と衛星カロン
- 2015/02/05 - 最接近まであと半年 「ニューホライズンズ」がとらえた冥王星
- 2014/08/26 - 探査機ニューホライズンズ、海王星軌道を越えて冥王星へ
- 2014/08/07 - アルマ望遠鏡で冥王星の軌道を精密測定
- 2014/06/17 - 衛星カロンに地下海はあったか 答えは来夏の冥王星探査で
関連記事
- 2024/09/10 カイパーベルトの外側に10個以上の天体を発見
- 2024/07/02 カイパーベルトは予想外に広い?鍵となる天体を「すばる」で発見
- 2021/01/15 ハッブルの10倍暗い宇宙を見たニューホライズンズ
- 2020/12/28 氷天体の環境を左右するガスハイドレートの形成
- 2020/06/18 冥王星の大気崩壊が急速に進行
- 2020/06/17 地球とニューホライズンズから星の視差測定に成功
- 2019/08/15 冥王星の14の地名を新たに承認、ローウェル領域、ライト山など
- 2019/07/02 太陽系外縁天体の衛星は巨大天体衝突で形成された可能性
- 2019/05/28 冥王星の内部海の鍵はメタンハイドレート
- 2019/05/24 「ウルティマ・トゥーレ」は「ウルティマ」と「トゥーレ」が合体してできた
- 2019/02/18 最果ての天体ウルティマ・トゥーレはパンケーキ形だった
- 2019/01/30 ウルティマ・トゥーレの鮮明な画像
- 2019/01/07 ニューホライズンズ、65億km彼方のウルティマ・トゥーレをフライバイ探査
- 2018/08/31 ニューホライズンズ、ウルティマ・トゥーレを初検出
- 2018/06/07 ウルティマ・トゥーレに向けて目覚めたニューホライズンズ
- 2018/05/31 冥王星は10億個もの彗星衝突でできたのかもしれない
- 2018/04/13 「キューブリック山」など、冥王星の衛星カロンの地名を正式承認
- 2018/03/16 ニューホライズンズの次の目標天体は「世界の果て」
- 2018/02/19 ニューホライズンズ、28年ぶりに史上最遠撮影記録を更新
- 2017/09/14 冥王星の地形に初の公式名称、「ハヤブサ大陸」など