冥王星に高さ数kmの氷火山らしい2つの山
【2015年11月12日 New Horizons】
「ニューホライズンズ」による冥王星の観測データから新たに、幅数十km、高さ数kmという巨大な山が2つ見つかった。どちらも氷火山とみられている。おそらく地質学的な意味で最近まで活動していたと考えられ、火口からは水の氷や窒素、アンモニア、メタンなどの混合物が噴出すると推測されている。
「氷火山というのはまだ仮説に過ぎませんが、もし本当にそうなら、頂上にあるくぼみは地下から噴出した物質が崩れてできたもののはずです。一風変わった山の側面にある輪状地形は、ある種の火山流によるものかもしれませんが、なぜ輪状なのか、一体どんな物質で構成されているのかは不明です」(研究チーム Oliver Whiteさん)。
驚くべき発見は他にもある。冥王星の地質学的な年代が、古いものから中期、比較的若いものと広範囲に及んでいることだ。天体の表面の年代決定に用いられるクレーター計数から、冥王星には約40億年前という、太陽系の惑星形成直後にまでさかのぼる古い表面の存在が示されている。その一方で、全くクレーターの見られない広大な領域「スプートニク平原」(非公式名)は過去1000万年以内に形成されたと考えられている。
さらに、最新のクレーター計数データによって、冥王星上に中期に当たる年代の地形も発見された。冥王星は40億年以上の長い歴史を通じて、地質学的に活発だったということだ。
クレーター計数は、カイパーベルトそのものの構造にも洞察を与えてくれる。冥王星と衛星カロンに小さなクレーターが少なすぎることから、モデルの予測よりも小さな天体が少ないと考えられるのだが、そうすると幅1km程度の小天体が集まってカイパーベルト天体が形成されたとする長年のモデルに疑問が生じる。幅数十kmのカイパーベルト天体は直接形成された、というモデルが支持されることになる。
多くのカイパーベルト天体が現在の大きさで誕生したのかもしれないというのは、研究者にとっては実にエキサイティングだ。ニューホライズンズの次のターゲットである、幅40~50kmのカイパーベルト天体「2014 MU69」の探査によって、ひょっとすると太陽系を形成する元となった原初の天体の姿が初めて見える可能性もある。
ニューホライズンズ・ミッションは、魅力的な冥王星の衛星とその変わった特徴にも光を当てている。たとえば、月を含め太陽系内のほぼすべての衛星は自転と公転が同期しているが、カロンを除いた冥王星の4つの小衛星は自転のほうがはるかに速いことがわかった。最も外側の衛星ヒドラは、冥王星の周りを一公転する間に89回自転する。また、カロンの影響で小衛星の自転速度が変化するとも考えられている。
さらに、4衛星のうちいくつかが、2つ以上の天体の合体から生まれたこともデータから示唆されている。「冥王星は過去にもっと多くの衛星を従えていたのではないかと思われます。大きな衝突の結果、カロンが作られたのでしょう」(SETI研究所 Mark Showalterさん)。
新データからは、冥王星の上層大気が著しく冷たくコンパクトで、冥王星の大気が宇宙空間へ逃げ出す割合は従来の説より3桁以上も低いこともわかった。冥王星からの大気散逸プロセスは彗星に似ていると考えられてきたが、地球や火星で起こっているメカニズムと同じであるようだ。
〈参照〉
- New Horizons: At Pluto, New Horizons Finds Geology of All Ages, Possible Ice Volcanoes, Insight into Planetary Origins
〈関連リンク〉
- 探査機ニューホライズンズ: http://pluto.jhuapl.edu/
- NASA: http://www.nasa.gov/
- 月探査情報ステーションブログ: http://moonstation.jp/ja/blog/
- 星ナビ.com:
- 2015年9月号 News Watch「太陽系の果てで息づく冥王星」
- 2015年7月号 特集「ニューホライズンズ」「冥王星を探す・撮る」「発見者クライド・トンボー」
- こだわり天文書評:
- 「太陽系はここまでわかった」
- 「太陽系ビジュアルブック 改訂版」
- 「なぜ、めい王星は惑星じゃないの?」
- 「新しい太陽系」
- 「Planets Beyond - Discovering the Outer Solar System」
- 「IS PLUTO A PLANET?」
- 「Pluto Files」
〈関連ニュース〉
- 2015/10/15 - 冥王星の空は青い!水の氷も発見
- 2015/10/13 - カロンに激動の歴史、氷火山活動もあった可能性
- 2015/09/29 - 【レポート】第3回天文講習会「宇宙最前線」「ガイド撮影入門」
- 2015/09/18 - 逆光でとらえた冥王星に見られる窒素の循環
- 2015/09/14 - 冥王星フライバイから2か月、ニューホライズンズから本格的にデータ送信開始
- 2015/07/28 - 冥王星を流れる窒素の氷河、冥王星を覆うもや
- 2015/07/24 - 冥王星の低い山々、衛星ニクスとヒドラの高解像度画像
- 2015/07/21 - 冥王星に広がる氷の平原
- 2015/07/17 - カロンの大きな山と、冥王星観測85年史
- 2015/07/16 - 冥王星のクローズアップ画像公開、3500m級の氷山
- 2015/07/15 - ニューホライズンズ、史上初の冥王星フライバイを見事達成!
- 2015/07/14 - 従来より「大きくなった」冥王星
- 2015/07/13 - ニューホライズンズ、いよいよ明日冥王星に最接近
- 2015/07/09 - 冥王星の表面にクジラ、ドーナツ、ハート模様
- 2015/07/07 - ニューホライズンズ撮影、冥王星の最新高解像度画像
- 2015/07/06 - 通信トラブルも回復 ニューホライズンズの冥王星接近まで1週間
- 2015/06/30 - ニューホライズンズの冥王星最接近まで2週間
- 2015/06/16 - ニューホライズンズ最接近まで1か月、冥王星の最新画像
- 2015/06/09 - 冥王星の衛星「ニクス」と「ヒドラ」、予測不可能な不規則自転
- 2015/05/15 - ニューホライズンズがとらえた冥王星の衛星たち
- 2015/04/30 - 見えてきた冥王星表面の明暗、極冠の存在の可能性も
- 2015/04/16 - 接近探査まで3か月、冥王星と衛星カロン
- 2015/02/05 - 最接近まであと半年 「ニューホライズンズ」がとらえた冥王星
〈関連製品・商品〉
関連記事
- 2024/09/10 カイパーベルトの外側に10個以上の天体を発見
- 2024/07/02 カイパーベルトは予想外に広い?鍵となる天体を「すばる」で発見
- 2021/01/15 ハッブルの10倍暗い宇宙を見たニューホライズンズ
- 2020/12/28 氷天体の環境を左右するガスハイドレートの形成
- 2020/06/18 冥王星の大気崩壊が急速に進行
- 2020/06/17 地球とニューホライズンズから星の視差測定に成功
- 2019/08/15 冥王星の14の地名を新たに承認、ローウェル領域、ライト山など
- 2019/07/02 太陽系外縁天体の衛星は巨大天体衝突で形成された可能性
- 2019/05/28 冥王星の内部海の鍵はメタンハイドレート
- 2019/05/24 「ウルティマ・トゥーレ」は「ウルティマ」と「トゥーレ」が合体してできた
- 2019/02/18 最果ての天体ウルティマ・トゥーレはパンケーキ形だった
- 2019/01/30 ウルティマ・トゥーレの鮮明な画像
- 2019/01/07 ニューホライズンズ、65億km彼方のウルティマ・トゥーレをフライバイ探査
- 2018/08/31 ニューホライズンズ、ウルティマ・トゥーレを初検出
- 2018/06/07 ウルティマ・トゥーレに向けて目覚めたニューホライズンズ
- 2018/05/31 冥王星は10億個もの彗星衝突でできたのかもしれない
- 2018/04/13 「キューブリック山」など、冥王星の衛星カロンの地名を正式承認
- 2018/03/16 ニューホライズンズの次の目標天体は「世界の果て」
- 2018/02/19 ニューホライズンズ、28年ぶりに史上最遠撮影記録を更新
- 2017/09/14 冥王星の地形に初の公式名称、「ハヤブサ大陸」など